難民支援NGOが公金分配「談合」

不正続きのジャパン・プラットフォームで企業理事が大量退任。官財民の三位一体が壊れた。

2018年8月号 GLOBAL

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JPFの永井秀哉共同代表

難民支援では日本の代表的NGO(非政府組織)であるピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が6月、狂犬病予防法違反の疑いで広島県警の強制捜査を受けた。県内の神石高原で捨て犬の「殺処分ゼロ」をめざして7万平方メートルの保護シェルター「ピースワンコ」を開設、1500頭以上を収容して神奈川などで里親探しをしているが、法で義務付けられた予防注射を怠っていた疑いである。

代表の大西健丞(けんすけ)は、シリア難民支援でJENやADRAなど不正が相次ぐ支援組織ジャパン・プラットフォーム(JPF)の発起人の一人で大黒柱でもあり、5月30日に共同代表理事を交代したばかり。本誌報道でJPFへの外務省支援金20億円が一時ストップしたため、大西はお膝元と表舞台で往復ビンタを食らった形なのだ。

県警の捜査後、「注射が一時追いつかなかった」と釈明。現在は全頭終えたとしているが、収容頭数が年々膨張する一方で、不妊・断種処置をほとんど行わないため、脱走して野犬化するリスクが地元や動物愛護団体からも指摘され、週刊新潮5月18日号で「偽善」と叩かれた。

独りよがりの「公金」亡者

JPFの大西健丞前共同代表

Photo:ピースウィンズ・ジャパンの公式ツイッターより

「かわいそう」の情に訴えて巧みに人を誘いこむが、「善意という名のエゴ」には気づかない独りよがりは、JPFでも同じ。政府・企業・NGO三位一体の協力組織として2000年に発足した当初は「欧米に負けないよう官の資金を呼び水とし、企業と市民の支援を広げる」先駆的な試みだったが、金欠病のNGOが蜜にたかる蟻のように群がり、外務省にぶら下がって公金にありつく亡者と化した。

加盟団体が集まって「NGOユニット」を結成、PWJなどが構成するコアチームで支援事業選定や資金配分を事前調整し、常任委員会で形式的に追認させる仕組みを牛耳る(委員長はNGOが握る)。NGO団体は事業規模別にカテゴリーに分類され、しっかりした基準もなく前年実績重視のため、既得権を持つ大手NGOが有利、新参や小団体は不利なのだ。ユニットはJPF「党内党」の談合組織と化し、学生への日当ピンハネ、リべート、他の団体への丸投げ、資金トンネルなどの「依存と腐敗」を覆い隠してきた。

5月30日の理事会は大荒れだった。理事が23人中13人も大量退任、大半は外務省に阿(おもね)るだけのNGOに嫌気がさした企業出身者だ。新任は候補5人のうちNEC出身者が辞退、残る4人は全員NGO出身で、理事数が大幅に減ったうえ、比重が元官僚とNGOに傾き、経済界はJPFから足抜けした格好だ。

それだけではない。JPFには共同代表が2人いて、1人が経済界、1人がNGOから選ばれてきた。ADRAジャパンの橋本笙子が大西の後任の予定だったが、アサド夫人の団体を支援する大失態を本誌に暴かれ、さすがに理事再選どまりで自粛し、次善の策としてほとんど無名のCWSジャパンから事務局長の小美野剛を立てた。

他方、経済界からの共同代表は、富士ゼロックス出身の有馬利男から、興銀出身の永井秀哉(しゆうさい)(立命館大学OIC総合研究機構上席研究員)に交代した。この永井が学生時代は菅直人の友人と自称し、銀行や大学の肩書を笠に、「偉くなりたいだけ」と評判がよくない。自宅にベンツを持つ身でNGO好きとはいかにもそぐわない。JPFでも「俺はガバナンスの専門家」が口癖の割に、本誌の取材にも逃げの一手で、事務局の代理回答でしのぐ姑息さだった。

昨年、JPFで起きた「経営委員会つぶし」では、経団連事務局出身で“大西信者”の金原主幸(きんばらかずゆき)理事とともにNGOユニットのお先棒をかついだ。経営委はNGOのガバナンスや効率化などのため16年12月に設けられ、有馬や大西、永井や金原、橋本のほか外務省国際協力局政策課長も委員だったが、主要NGO8団体が連名で9月5日に経営委廃止の要望書を出したのだ。

守旧派が理事会乗っ取り

JPFの16年度事業収入57・7億円のうち政府支援金+助成金は96%を占める。ほぼ公金なので経営委は不正防止策の提案のほか、①自己資金比率の下限を10%、②常勤職員は3人以上、③年間5千万円以上の事業を運営――などの資格要件を満たしたNGOに限定するという改革案を打診したのだ。

反対の急先鋒、橋本のADRAは自己資金が4・35%、CWSは0・64%と限りなくゼロに近いからほぼ失格は確実。大西のPWJですら10%すれすれで、有資格団体は半分に減る。競争原理で質の向上をめざす案に怖気をふるったのは、国の金ヅルを失う恐怖と不正隠しだろう。

永井や金原らもNGO支持に回ったため、改革案は棚上げになり、経営委員全員が辞任。以後、委員会は開店休業で、これが5月末の理事大量退任の伏線になった。橋本がお目こぼしで不正を問われず、調査委員会も設けられなかったのは、理事会がNGOとシンパを中心とする守旧派に乗っ取られたからだ。

奇妙なことに、NGOは公金山分けでは協力しても、支援事業では連携しない。当初、イラク支援では団体間で一部協力したが、パキスタンで大喧嘩してから横の連携が消え、これが独りよがりと非効率を助長している。現にミャンマー少数民族支援でもサイトが分散、宿舎や車が重複していると外部コンサルに指摘されても改まらない。

企業がシラケるのも道理だ。ただでさえ細る企業献金が激減すれば、遠からずJPFは国の丸抱えになる。外務省関係者も「NGOはどうせキャンデー入りの愛のポシェットを配るレベル。軍事貢献できない日本が頑張っていることを見せる捨てガネでいい」と本音を漏らす。NGOは所詮、日本の無力な外交を隠す“イチジクの葉”なのか。

新理事会に自浄能力はなく、理事総入れ替えしかない。自業自得だろう。2001年に鈴木宗男と衝突した大西は政治術が巧みで、ピースワンコもふるさと納税に絡めて8億円も集め、捨て犬から災害救助犬「夢ノ丞」を育てるPR上手だが、政治性は両刃の剣だ。県警の捜査は自民動物愛護議連と無縁ではない(44~45ページ参照)。JPFを下請け化した外務省も「殺処分にすべきは国際協力局」と言われかねない。(敬称略)

   

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