織田絆誠代表の警護役の組員を射殺された任侠山口組。神戸山口組への「返し(報復)」は必至。
2017年11月号 DEEP
三つに分裂した山口組のうち、任侠山口組(任侠)の織田絆誠代表の車列が9月12日、神戸山口組(神戸)の関係者とみられる数人に襲撃され、警護役の組員が射殺された。任侠側の「返し(報復)」は必至。六代目山口組(六代目)は両団体の切り崩しを進め、警察は幹部を逮捕するなどして各団体の抑え込みを図る。山口組を巡る緊迫した状況が続いている。
警察関係者によると、織田代表は同日午前10時ごろ、車に乗って神戸市長田区内の自宅を出た。警護役らが乗った車2台も続いた。直後に代表の車が男らの車に体当りされて停止。別の車から飛び出した警護役の楠本勇浩組員=当時(44)=は男らとつかみ合いになり、頭を銃撃された。織田代表は無事だった。
犯人グループは車を放置し、徒歩やバイクで逃げたが、兵庫県警の捜査本部は4日後の9月16日、犯人グループの1人として殺人容疑で神戸傘下の菱川龍己組員の逮捕状を取り、全国に指名手配した。
現場に残された指紋などから浮上し、現場から約10キロ離れた神戸市北区の歩道脇で、凶器とみられる回転式拳銃と菱川組員の免許証などが入った鞄が見つかった。捜査本部は殺害の実行犯とみている。
「放置された車は周辺で何度も目撃されていた。織田代表は襲撃された時間によく自宅を出るといい、神戸側は周到に織田代表の行動を確認し、襲撃を準備してきたのだろう。ただ何人もいながら織田代表に向けて発砲しなかったことや、免許証を拳銃と一緒に捨てるというのは解せない」と警察関係者は話す。
六代目から神戸が分裂したのは2015年8月。六代目は司忍組長を輩出した2次団体、弘道会の支配が強まり、組の運営や高額な上納金に不満を募らせた最大の2次団体、山健組などを中心に飛び出して、神戸が結成された。組長は山健組の井上邦雄組長が兼任している。
分裂以降、六代目と神戸の抗争は100件近くに上り、昨年5月には、岡山市内で神戸傘下の組幹部が射殺される事件まで起きた。実行犯として弘道会系の組員が逮捕され、一、二審で無期懲役の判決を受けている。
警察が把握する昨年末現在の構成員は六代目が5200人、神戸は2600人だった。
今年4月末になり、神戸から任侠が分かれた。任侠の幹部は兵庫県尼崎市の関連団体事務所で、暴力団としては異例の記者会見を開き「山健組の一部をひいきする神戸の組運営は六代目以下だった。真の山口組を作り上げる」と宣言した。
当初は「任俠団体山口組」と名乗ったが、その後「任侠山口組」に改称された。
「山健組の副組長だった織田代表らは上納金の額や進言を聞いてもらえないことなどを巡って、井上組長や井上組長の跡目を狙う山健組の若頭代行らと対立していた。上層部に岡山の事件の返しを止められたことも遺恨となった。任侠には、神戸傘下の組長50人ほどが転じた」と周辺関係者は説明する。
当の井上組長は、山健組の出身だった五代目山口組の渡辺芳則組長の秘蔵っ子。「大阪戦争」と呼ばれる対立組織との抗争で組員2人を殺害、00年に出所するまで20年近く服役した。
周辺関係者は「その間に暴力団対策法が成立、強化された。『反社(会的勢力)』となったヤクザは、フロント企業でしのぐなど、在り方が大きく変わったが、井上組長は世の中の変化についていけないと指摘されている。任侠に行った連中には、そうした不満もある」と明かす。
周辺関係者によると、任侠は既にヒットマンを決め、神戸に対する返しの準備を始めたという情報もあるという。
六代目は神戸の分裂後、先行きを不安に思った神戸と任侠の若い衆を取り込もうと、インターネットに「六代目山口組、離脱者に告ぐ」と題する書き込みをして、両団体から六代目に戻った組員の名前を公表している。
「若い衆だけでなく、神戸や任侠傘下の組長も弘道会などへ移籍している。切り崩された神戸や任侠は六代目への返しを計画するだろう」と周辺関係者。三つ巴の状況は予断を許さないようだ。
一方、警察は三つの山口組関連施設の警戒を手厚くするとともに、今年6月には、自分が使う携帯電話を知人名義で契約したとして、兵庫県警が神戸の井上組長を詐欺容疑で逮捕。さらに山口組の分裂に伴う会津小鉄会の内紛を巡り、京都府警が暴力行為法違反などの容疑で再逮捕した。
神戸に対しては、暴力団追放兵庫県民センターが兵庫県淡路市にある本部事務所の使用禁止を求める仮処分を神戸地裁に申し立てた。平穏に生活する権利が侵害される恐れのある住民に代わり、暴追センターが裁判の当事者となる暴対法の代理訴訟制度が使われた。
9月には、愛知県警が名古屋市内の飲食店からみかじめ料を取ったとして、県暴力団排除条例違反の容疑で弘道会の竹内照明会長らを逮捕。10月に入り、別の風俗店にもみかじめ料を支払わせたとして再逮捕した。
警察関係者は「井上組長は起訴されず、1カ月ほどで釈放になったが、いつでもトップを不在にできることを示した。本部事務所の使用禁止は任侠や六代目との抗争への備え」と解説。
六代目の若頭補佐で、次の次の八代目組長とも言われる竹内会長らの逮捕については「名古屋市などの特定区域では、条例でみかじめ料を支払った者にも罰則を設け、弘道会の資金源となる、みかじめ料の根絶を目指している。弘道会の弱体化こそが六代目、ひいては暴力団全体の弱体化につながる」と話す。
周辺関係者も弘道会について「山健組や住吉会などと違い、逮捕されても黙秘を通し、警察と最も敵対している。警察が目の敵にしている」と認める。
任侠は当初、暴力団特有の親分、子分の盃は交わさない「親睦団体」と表明したこともあり、警察は「神戸の内部対立とみていたが、任侠の組織固めは進んでいる」(関係者)という。
「三つの山口組は一触即発。かつてない緊張状態にある。警察はこの機会に共謀罪法や通信傍受を使い、抗争を最小限度にとどめ、組織を弱体化したいだろう」とベテランの社会部記者は見ている。