読者の声

2017年8月号 連載

  • はてなブックマークに追加

調査報道ジャーナリズムにとって内部告発者の存在は欠かせない。その際、二つ問題がある。

記者が告発情報を媒体に載せるだけなら、それは情報を公衆へと中継しているに過ぎない。告発者に広報の道具として使われているという局面だ。告発を端緒にして探査を開始した記者がストーリーを組み立てて、それを発信して初めて調査報道となる。

どのような権力の不正が告発され、その不正でどのような犠牲者が生まれているのか。隠蔽された権力行使を暴露し、犠牲者を救済し、世の中を改良することが調査報道の価値である。

他方、告発者にもいろいろある。パナマ文書の情報源、ジョン・ドゥー(匿名)は高潔な告発者だった。彼は、自己のではなく、人々の利益のために告発した。我々がなお資本主義と呼んでいるものが、「経済的奴隷制に等しい、新しいシステム」へと移行していることに警告を発し、犠牲者の救済のために危険を冒した。

加計学園問題に見られる告発と報道の関係は、政府内部の「コップの中の嵐」の中継という域を脱していない。

早稲田大学教授 花田達朗

   

  • はてなブックマークに追加