野田 佳彦 氏
前内閣総理大臣 民進党幹事長
2017年8月号
POLITICS [インタビュー]
1957年千葉県船橋市生まれ。早稲田大政経卒。松下政経塾、千葉県議を経て、93年衆院初当選(通算7回)。財務副大臣、財務相などを歴任し、2011年8月菅首相の後を受け第95代首相(民主党代表)。12年12月総選挙に敗れ内閣総辞職(首相在任482日間)。昨年9月より民進党幹事長。
――首都の有権者1100万人が「安倍一強」に「ノー!」を突きつけました。
野田 第1次安倍政権から私の政権(在任1年4カ月)まで、6人の総理が短命に終わり、「安倍再登板」には、政治の安定を望む世論がありました。閣僚の不祥事が続いても、内閣支持率が下がらないのは、国民が大目に見ていたからです。結果、国政選挙に4連勝した安倍政権は衆参で過半数を占める「一強」になった。さらに、3月の自民党大会で党総裁任期が3期9年に延長されたため、来年9月に「3選」されると、安倍さんは2021年まで政権を握ることになる。そうなると桂太郎翁を抜く「歴代最長在位」も視野に入ってきます。長期政権の驕りが出るのも当然かもしれない。安倍さんが5月に「9条改憲」を打ち出した時は「本気か」と疑った。国会で趣旨を問われると、「読売新聞のインタビューを熟読して」と説明を拒む。国会軽視を通り越し、常軌を逸していると思った。
通常国会の終盤では「数の力」を振りかざして、委員会審議を打ち切り「共謀罪」法案の成立を強行。「森友」「加計」問題では、総理や昭恵夫人のお友だちを優遇し、行政を歪めた「国政私物化」の疑惑が晴れないのに、我々の追及から身をかわすように、国会を閉じてしまった。
極め付きは選挙中に、稲田防衛相から「自衛隊として」投票を呼び掛ける発言が飛び出したこと。それでも安倍さんは防衛相を庇い、罷免しなかった。あり得ないですよ。積もり積もった国民の嫌悪感が爆発した。「安倍さん、驕るな!」という怒りの審判が下ったのです。
――選挙後、安倍総理は「深く反省しなければならない」などと語っています。
野田 国民の7割が「加計」を巡る政府の説明は「納得できない」と答えています。都議選前にも安倍さんは、記者会見を開いて「反省」を口にし、「真摯に説明責任を果たしていく」と約束していました。ところが、選挙中に、萩生田官房副長官の獣医学部新設への関与を疑わせる文書が出てくると、貝のように黙ってしまった。口先だけじゃないですか。
国民の審判は「国会を開け!」ですから、自民党も閉会中審査を拒否できなくなった。我々野党はすでに(6月22日)憲法53条に基づく臨時国会の召集を求めています。憲法は「衆参いずれかで総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなければならない」と定めており、この53条請求は今回を含めて37回あり、うち33回は開かれています。実は15年秋にも、我々野党は臨時国会の召集要求を出したのですが、安倍内閣は首相の外遊日程などを理由に拒否した。憲法53条は少数派の発言権を保証するための規定であり、2度も「憲法無視」の暴挙が許されるものでしょうか。わずか数日の閉会中審査でお茶を濁すのではなく、速やかに臨時国会を召集すべきです。 首相や閣僚、国会議員を含む公務員には憲法を尊重し、擁護する義務があります。憲法に従わない首相に、憲法改正を語る資格がないことは明らかです。
――自民都連が現有57議席から23議席へ大敗を喫した投開票日の夕刻、安倍総理は麻生副総理、菅官房長官、甘利明氏と「オテル・ドゥ・ミクニ」で会食。その後、富ヶ谷の自宅に戻っています。
野田 死屍累々の現職、新人候補のことを思うと、辛くて食事が喉を通らないと思うのですが、都内屈指の高級レストランで夕食とは、ちょっと驚きです。しかも、政権発足から4年半が経つのに、まだ私邸住まいです。危機管理上は、公邸に住むのが鉄則ではないですか。そのために職住近接、歩いてゼロ分、そこに意味があると思います。富ヶ谷からは順調に走って車で15分、渋滞したらもっとかかる。北朝鮮がミサイルを撃ったら10分以内に着弾しますから、毎週のようにミサイルが飛んで来るような状況下では、公邸に住むべきです。総理を警護する車の隊列は、私邸で待機しているわけではないから、夜明けにミサイルが飛んで来た日など、官邸に着くまで1時間以上かかったそうです。安倍官邸は驕り高ぶる一方で緩み切っていると思います。
故金日成主席の生誕105周年の軍事パレードがあった4月15日に、総理主催の「桜を見る会」を盛大にやっていました。ワイドショーには「開戦前夜」みたいな報道が氾濫する一方、私邸住まいの総理には危機管理意識が全くない。安保法制や9条改憲を論ずる前に、改めるべきは首相官邸の危機管理だと思います。
――内閣改造で局面打開のようです。
野田 目玉人事で政権浮揚ですか。甘すぎますね。都議選最終日に街頭演説に立った総理は、聴衆から「辞めろ!」コールが起こると、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と一刀両断に切り捨てた。公務員は全体の奉仕者であり、総理は行政府の長なんです。「辞めろ!」と叫ぶ声にも耳を傾け、理解を得られずとも分け隔てなく語りかけ、国民を分断するような物言いは絶対にすべきでない。
総理の車列は5台を連ねてノンストップで走りますが、時々交差点で止まります。窓から元気のないサラリーマンの姿が見えると、景気が悪くてリストラに遭ったかな。買い物袋を抱えた奥さんを見ると、やりくりがたいへんそうだなと心配になる。警護が2人だけの財務大臣の時とは見える景色が全く違いました。「ぜんぶオレのせいだ」と思うようになりました。それほど総理のイスは重いものなのです。口では「丁寧な説明」と言いながら異論を認めず、少数派を切り捨てる安倍さんは、誰のための政治をやっているのか。友だちは見えても国民がまるで見えなくなっているのではないか。
人口減少の日本はたて続けに大震災や自然災害に見舞われ、緩慢なる国難に陥っていることは、日本人の誰もが分かっています。「三本の矢」「新三本の矢」「働き方改革」「人づくり革命」と、看板を掛け替えても何も解決しません。本来取り組むべき消費増税や社会保障改革は全て先送りして、政権浮揚のポピュリズムに奔走する。国民はもう騙されないと思います。
(聞き手 本誌発行人 宮嶋巌)