トヨタCVカンパニーの自信作 タフなボディへ新型「コースター」

地球のあちこちで人々を運ぶマイクロバスが安全性を高めて24年ぶりにフルモデルチェンジ。CVカンパニーの船出を飾った。

2017年3月号 INFORMATION
取材・構成/編集委員 上野真理子

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新型コースターと開発担当の山川雅弘主査

1月23日、トヨタ自動車が新型「コースター」を発売した。コースターはホテルなどの送迎や幼稚園バス、ロケバスなどで使用されることの多い定員25人前後のマイクロバス。名前を知らなくとも、おそらく誰もが一度はどこかで乗ったことがあるはずだ。

4代目となる今回のフルモデルチェンジは、実に24年ぶり。シルエットも内装も一新し、高級感の漂うモダンな印象となった。乗ってみると、以前より空間の広がりが感じられ、走行中も静かで快適だ。

これまでもマイナーチェンジで改良が続けられてきたコースターだが、なぜ今、新型車の発表となったのか。内外の要因に後押しされ、まさに満を持してのフルモデルチェンジだった。

「環状骨格」でボディ剛性強化

昨年12月、発表会で戦略を語ったCVカンパニーの増井敬二プレジデント

トヨタ自動車は昨年4月、製品群ごとに七つのカンパニーを設立して新体制に移行。子会社のトヨタ車体が中核メンバーに加わる「CVカンパニー」が誕生した。

CVカンパニーはバン、ミニバン、トラック、SUVなど、世界各地で人やモノを運ぶ生活に欠かせないクルマを手がけ、台数実績はトヨタ全体の約3割に及ぶ。コースターもここに属する。中近東などを中心にグローバルに販売され、旧型も台数は右肩上がり。だが乗用車が花形のトヨタで商用車にはこれまで陽が当たりにくく、新型車開発の優先順位は低かった。

商用車が社会に与えるインパクトは実は大きい。近年、バス事故が問題となる一方、環境面や室内の規格などで世界的に規制強化の動きもある。旧型の発売から時が経ち、新型車発売の必要性は高まっていた。そんな中でのカンパニー制移行である。トヨタ車体や岐阜車体、傘下の日野自動車との協力の下、「もっといいCVづくり」を旗印に、コースターはCVカンパニーにとって初のフルモデルチェンジ車となった。

新体制で機能別組織からクルマを軸にした一気通貫の組織となり、「仕上げの段階で開発、生産部隊が一体となり、短期間で高いレベルまで持ってくることができた」と同カンパニーの増井敬二プレジデントは語る。クルマの仕上げの段階では品質や組み立てで問題に直面することもあるが、今は現場の提案がすぐにチーフエンジニアやプレジデントまで伝わる。「自信をもってお届けできるクルマ」(増井プレジデント)との言葉は、カンパニー制のメリットを生かせたという自負の表れでもあるだろう。

旧型に比べ室内高は60ミリ、肩から窓までの幅が40ミリ広がった(写真はEX冷蔵庫付き28人乗り)

新たに開発された「環状骨格」

今回のフルモデルチェンジで重視したのは、快適な室内空間と内外装デザイン、安全性、そしてQDR(品質・耐久性・信頼性)だ。中でも、安全性を高めることは最重要課題だった。一度に大勢の人が乗るバスだからこそ、万一に備え被害を最小限にするクルマが求められる。世界的にも、安全性への要請は高まっている。

課題解決に向け、新型コースターでは「パッシブセーフティの強化を重視」(山川雅弘主査)した。先代との大きな違いは「環状骨格」の採用だ。図のように四面の骨格をつないで一体化することで、ボディ剛性を向上させた。昨年12月に行われた発表会では、検証映像を披露。映像ではボディが横転しサイドが地面に叩きつけられても変形が少なく、室内側の生存空間が確保されていた。ロールオーバー(横転)の欧州安全基準を上回る性能という。

あわせてレーザー溶接や高張力鋼板を採用、ボディ構造を根本から見直した。近年はクルマを制御する技術も進んでいるが、構造から「こわれないクルマ」を目指す姿勢は、トヨタらしいモノづくりの原点を感じさせる。ボディ剛性が高まったことで、旧型に比べて車両の揺れが軽減され、走行中もより静かになった。もちろんエアバッグやシートベルト、横滑り防止装置などの安全装備も充実させている。

乗り心地や広さを実感

昨年の発表会では、試乗で旧型との乗り比べも実施され、新型車の乗り心地や車内の広さを実感する声が多かった。今後は世界各国で、マイクロバスの室内空間のスペースや通路の高さなどの法規定が増えていくとみられる。新型車は先を見据え、そうした変化にも対応できる造りになっている、と現場の技術者は語る。

増井プレジデントはCVカンパニーのラインアップ拡充戦略について、「これからはそれぞれの車種の特性や担うべき役割を踏まえて取り組む」と話した。地味ながら世界各地で多くの人々を乗せて走るコースターが「はたらくクルマ」を管轄するCVカンパニー船出の第1号車となったのは、その象徴といえるかもしれない。変化する世界情勢の中でも、企画から生産までスピーディに意思決定が可能な新体制で、技術力が大いに発揮されることを期待したい。

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取材・構成/編集委員 上野真理子

   

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