2017年3月号 BUSINESS
かつて「防衛省の天皇」と畏怖されるほどの実力を誇示した守屋武昌元防衛事務次官。
2007年、防衛大臣に着任早々の小池百合子・現東京都知事が守屋氏を更迭。直後に防衛商社の山田洋行への便宜供与の見返りに同社の宮崎元伸元専務からゴルフ接待などの供与を受けた収賄の罪に問われ、懲役2年半の実刑となり、10年から服役した。その守屋氏がまた性懲りもなく、防衛利権をめぐる事件の当事者として蠢いている。
守屋氏は昨年11月2日、富士重工業(吉永泰之社長)を相手取り、別の訴訟への協力報酬として2億円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。
別の訴訟とは、富士重工業が国に対し、陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターAH─64Dアパッチロングボウ(以下「アパッチ」)のライセンス生産に関する初度費(製造の初期段階で投資される費用)約351億円の未払い分を請求した裁判のこと。守屋氏はこの訴訟で、富士重工側に証言等で協力した。
陸自は02年12月までにアパッチ62機を調達する計画を立て、受注した富士重工が生産に必要な設備投資やライセンス料など初度費を負担し、62機に分けて価格に上乗せする予定だった。しかし陸自は08年以降、アパッチの調達を13機に縮小。初度費の多くが未回収となり、富士重工は10年1月、未回収分を請求するため国を提訴した。東京地裁は14年2月、富士重工業の請求を棄却。だが15年1月、控訴審で東京高裁が一転して損害賠償請求権を認め、約351億円を富士重工へ支払うよう国に命じた。この2審判決は15年12月に確定した。
この大逆転について、守屋氏は訴状で「私の協力が多大な寄与をなした」と主張している。
富士重工が1審で敗訴した翌月、同社の依頼を受けたS弁護士が守屋氏に対し、控訴審への協力を要請した。アパッチ調達問題が浮上した時期に守屋氏が防衛事務次官(04年8月~07年8月)を務めていたからだ。守屋氏は協力要請を受け入れ、2審で逆転するためには初度費の特殊性を強調すべきと進言した。裁判所に提出する報告書は、この助言を反映させて何度も修正が加えられた。守屋氏は防衛庁広報課長時代に作成した広報資料「防衛費の構造図」を同報告書に添付するよう促した。
2審判決後、S弁護士は守屋氏に「このお礼はきっとさせてもらいます」(訴状)と述べたが、一向に報酬の支払いはない。守屋氏は「報酬が発生することを前提としたもの」と主張、裁判で2億円の報酬を請求している。
これに対し、富士重工は「当社は提起される前にS弁護士を通じて守屋氏に連絡を取り、一定の謝礼を支払う用意がある旨の提案をした。しかし原告はこれを拒絶した」と反論している。「一定の謝礼」とはいくらなのか。守屋氏、富士重工の両者は取材に対して「コメントを差し控えたい」と口を閉ざす。
訴状で守屋氏は「国を相手とした訴訟に協力することは憚(はばか)られる」としながらも「防衛事務次官を務めた私の証言は、これ以上ない最良の証拠」と誇らしげに述べる。語るに落ちるとはまさにこのことだ。因縁の小池氏の活躍に比べ、防衛事務次官の職務上得た知識を報酬目当てに証言する情けなさ。国家公務員による守秘義務、国家公務員法に抵触しないのだろうか。