編集後記「某月風紋」

2017年2月号 連載
by 宮

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「東電改革提言」を自画自賛。資源エネルギー庁の村瀬佳史電力・ガス事業部長(1月11日、撮影/宮嶋巌)

「進軍ラッパ」を吹き鳴らす東京電力の数土文夫会長

夕闇迫る東京電力本店(東京・内幸町)

今春、東電に入社する新卒学生はわずか282人。震災前年採用1102人の4分の1だが、さらに辞退者が出そうだ。東電は震災から2年間新卒募集を行わず、再開した14年390人、15年748人、16年594人を採用したが、今年の新卒は300人に満たなかった。

震災後は依願退職が続出し、11年465人、12年712人、13年488人、14年381人、15年326人を数え、この5年半に計2513人が辞めた。創業以来初めて行った早期退職1151人を加えると、3664人が去ったことになる。結果、東電社員は震災前の約3万9千人から3万3千人に減り、新卒がいなくなった職場の平均年齢は43.3歳に跳ね上がった。

「震災後はボーナスが無くなり、管理職30%、一般職20%の給与カットを強いられた。昨年の春闘で震災前の5%減に戻ったが、組合員の生活実態調査では、約半数が『いい会社があれば移りたい』と答えています」(東電労組)

年末に経産省の有識者会議が発表した「東電改革提言」は「東電が捻出する負担額は16兆円。向こう30年、年間5千億円の資金を稼ぐことが福島への貢献」「世界市場で勝ち抜くことで福島への責任を果たす」「福島事業が東電存続の原点。世界最先端の技術を集積、福島への責任を果たす」と進軍ラッパを吹く。しかし、誰の目にも山のような荷物を背負ったロバを鞭打って、ヒマラヤを登るようなものだ。就活生が「東電に入りたい」と言ってきたら「バカ!」と追い返すのが親心だろう。

提言は「国民が納得し、現場が気概を持って働けるような東電改革の具体化」を謳うが、それこそ絵空事だ。遠からず、果てしない「贖罪」に未来を奪われた若手社員の「逃散」が起こるだろう。

   

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