大阪にカジノはいらん! 「教育投資」こそ成長戦略

辻元 清美 氏
民進党衆院議員

2017年2月号 POLITICS [インタビュー]
聞き手 本誌編集長 宮嶋巌

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辻元 清美

辻元 清美(つじもと きよみ)

民進党衆院議員

1960年生まれ。早大教育学部卒。大学在学中の83年NGO「ピースボート」創立。96年社民党の土井たか子党首の誘いを受け、衆院初当選(大阪10区、当選6回)。2010年社民党を離れ民主党入り。鳩山内閣で国交副大臣。岡田前代表の懐刀として党役員室長を務める。歴代首相との丁々発止の国会論戦は語り草である。

――早期解散・総選挙を睨み、野党4党が「統一候補」擁立に動き出しました。

辻元 私は岡田(前代表)執行部の一員(役員室長)として、昨夏の参院選を戦い、全国32の1人区で統一候補を擁立。11区で勝利したものの、民進党は党勢回復の途上で悪戦苦闘しています。

安倍政権は「年金カット」法や「カジノ解禁」推進法を次々に強行成立させ、国民の批判に全く耳を貸さないから、蓮舫さん(代表)のリーダーシップで衆院現有96議席をドンと増やすことも夢じゃない。

――しかし、辻元さんの地元大阪は「民進党不毛の地」と呼ばれています。

大阪で生き残った「絶滅危惧種」

8歳ごろ、近所のお店の前で

辻元 政権交代が実現した09年衆院選では大阪19小選挙区で民主党は17議席を占めたが、14年衆院選の小選挙区で勝ったのは私だけ。翌15年の大阪府議選では、公認候補を9人に絞り込んだのに当選は1議席のみ。「絶滅危惧種」なんですよ。

――なぜ、辻元さんだけ生き残ったの。

辻元 私が浪速の商売人の娘で、コテコテの「大阪党」やからじゃない。商売人だった祖父はブーゲンビル島で戦死。食うや食わずの父は15歳で丁稚奉公に出され、25歳の時に私が生まれた。父は船場(せんば)でちっぽけな洋服屋を営み、2階の六畳一間には風呂がなく、家族4人でずっと貧乏でした。闇市のような繊維街で暮らしてた頃は、在日の人や復帰前の沖縄の人たちと助け合って生きてた。博打で身を持ち崩す人、不渡りを摑まされ夜逃げする人もいた。私の父も商売に失敗、引っ越しばかりしてたから、吉野の山奥の親戚に長く預けられた。母が美容師免許を取って、私と弟を育ててくれました。

だから、偉大なお爺ちゃん(岸信介、吉田茂)を誇らしげに語る安倍総理や麻生副総理には、ムカッとする。私の祖父を「赤紙一枚」で犬死にさせたんは、誰なんや。父は泣きながら奉公に出ました。一家の大黒柱が戦死すると、庶民の家は3代に渡ってどん底に陥る。私が国会で「戦争をさせない」「貧乏を許さない」と叫び続けるのは、祖父の戦死と我が家の貧乏が、政治運動の原点だからです。

土井たか子さん(故人)の誘いを受け、衆院初当選(1996年)

――初当選から21年目になりますね。

辻元 女性代議士では野田聖子さん(自民党、当選8回)が一番古く、野党では私が一番古く、菅官房長官とは当選同期です。世襲議員とは対極の庶民の出で、大企業・大組織の応援を受けない女性議員の私でも、永田町で生き残れることを証明したいから、歯を食いしばって、岩山をよじ登ってきました(笑)。

――次の衆院選で何を訴えますか?

辻元 我々は野党なんやから、現政権と徹底的に闘うしかない。政権に復帰した時に困るからと、矛先が鈍るようじゃ、国民の信頼は戻らへん。アベノミクスとは、何やったんか。グローバル企業や富裕層はどんどん豊かになって、庶民の暮らしは苦しくなるばかり。今、政府が為すべきは一人一人を生きやすく、元気にする「人への投資」です。とりわけ私が訴えたいのは「未来への投資」――。裕福な家に生まれた子も経済的に苦しい家に生まれた子も、子どもはみんな平等です。私は全ての子どもが学べる社会を作りたい。高校を卒業した私は百貨店でバイトをしながら進学を夢見た。貯金が無いから、早稲田を受験した時は、サラ金で上京費を工面し、在学中は奨学金を借りまくり、バイトに明け暮れました。

現在、大学生の半分が奨学金を受けています。しかし、利子付きのローンのようなもので、卒業時に310万円も借金を背負う。非正規雇用で返済に苦しむ人が多く、日本学生支援機構の奨学金を滞納した人は33万人という数字もあります。

大学まで無償で学べる国づくり

――政府は低所得世帯の大学生を対象とする返済不要奨学金を作る方針です。

辻元 高校中退者の増加を食い止めるため、民主党政権は高校授業料の無償化を実現しました。就学前教育、高等教育のどちらも、日本の対GDP公的支出は、OECD諸国の中で最下位です。私は、勉強したい人は、親の経済状態に左右されずに大学まで無償で学べる国をつくりたい。貧しい大学生に月2~4万円の給付型奨学金を出すぐらいでは「未来への投資」とは言えません。子どもや若者への教育投資は、将来の納税者への投資であり、子育て世代の教育負担が減れば自然と赤ちゃんが増え、消費拡大にも繋がります。なぜ、今、国民の6割以上が反対するカジノ解禁なのか。そもそも賭博を、国の成長戦略にする根性が間違っとる! 教育投資こそが成長の礎です。

――しかし、「大阪カジノ」誘致は、日本維新の会の看板政策になっています。

辻元 大阪都構想の大風呂敷も、やれカジノだ、万博だというアドバルーンも、47年前の大阪万博の幻影を追いかける時代錯誤のマヤカシです。カジノや万博のお陰で普通の庶民の暮らしがよくなるもんか。私は博打の借金で困った家族を見てきたから、大阪にカジノはいらん、日本のどこにもいらん、と訴え続けます。

私は衆院議員になった翌々年NPO法を成立させ、それが今では5万法人を数え、高齢化や貧困、子育てなど社会的問題に取り組む「ソーシャルビジネス」の活動主体にもなってます。国レベルの制度を作るだけでなく、私の選挙区(高槻市=約35万人、島本町=3万人弱)でも実践したいと考え、20年に渡り地元の皆さんとNPO活動に取り組んできました。結果、島本町議会と高槻市議会では女性議員が増え、島本町議会では男女同数を達成。両議会の議長に女性が就き、子育て支援に力を注ぐようになり、共に35人以下学級を実現したら、子育て世代が移り住み、子どもの人口が増え始めた。

高槻市では一昨年から、市民の約3割の死因を占めるがんの無料検診を開始した。対象者全員(女性は20歳、男性は35歳から、共に69歳まで)が無料のがん検診を受けられる市は少なく、全国トップクラスの実践です。検診費用が大変そうですが、逆に早期発見により医療コストは下がり、高槻市の財政は黒字です。私は商売人の娘だから損するのが大嫌い。人を元気にする投資=ヒューマン・ニューディールこそが、私の成長戦略であり、大阪10区での成功例を、全国にどんどん広めたい。

   

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