2016年12月号 BUSINESS
かつてのビール業界の巨人、キリンビールが業績悪化に喘いでいる。国内ビール事業が長期低迷から抜け出せない。その看板商品である「一番搾り」について、景品表示法違反の疑いが浮上し、いよいよ旗色が悪い。
業界筋に「キリン47都道府県の一番搾りの産地表現について」(作成は平成28年7月)と題する文書が出回っている。内容を要約すると「キリンの『47都道府県の一番搾りキャンペーン』は、景品表示法からみてふさわしいものではない」──。怪文書ではない。作成者は、業界団体のビール酒造組合である。
そもそも「47都道府県の一番搾りキャンペーン」とは、何か?
キリンが国内9工場で製造した缶ビールに、各都道府県名を印刷して、販売するキャンペーンだ。今年5月に販売を開始し、10月までに全都道府県名を冠した、47の「〇〇づくり」(例えば「熊本づくり」)を投入した。
キリンはホームページで「47都道府県それぞれの土地の風土や郷土ならではの味覚に合わせてつくった47都道府県の一番搾り」と謳っているが、国内ビール工場は9つしかないから、ほとんどの「〇〇づくり」は、地元で製造されたものではない。 例えば「熊本づくり」の場合、「本商品は福岡工場での製造ですが、熊本のお客様と共に熊本ならではの味わいをつくりあげたため、熊本づくりとしています」との注釈が記されている。
昨年、「地元うまれシリーズ」を一部の都道府県で発売したところ好評を博したので、今年は全都道府県に拡大したという。売れ行きは上々で、一番搾りブランド合計で、販売数量が3%増(16年7−9月)を記録した。
しかし、この商品名はおかしいだろう。キリンが加盟するビール酒造組合は、公取委が認定した自主基準「ビール表示に関する公正競争規約」を策定しており、その中で「原産国、産地等について誤認される恐れがある表示」は不当表示として禁じている。47都道府県の「〇〇づくり」は規約違反なのか?
ビール酒造組合は平成19年5月に「ビールの産地表示などの自主基準」という細則(会員以外には非公表)を策定し、その中で禁止事例として「〇〇づくり」を明記しており、白黒ははっきりしている。
同業他社から「一番搾りのキャンペーン商品は自主基準違反」との指摘が出るのは当然だ。そこで、キリンは「店頭に産地がわかるホップ(麦芽)などを置いて、商品名と製造工場の場所は違うと告知する」として、批判をかわしてきた。ところが、今年になって47都道府県に急拡大したため、店頭での告知はほとんど実施されなかった模様。
苦情を受けたビール酒造組合が調査を行い、その結果が、冒頭の文書だ。この調査では、各業界の自主基準の元締めである社団法人「全国公正取引協議会連合会」にも見解を求め、その回答も「ふさわしくない」だった。
自主基準とはいっても、公取委の認定を受けた内容であり、業界大手が踏みにじるとは尋常でない。キリンは前年度、ブラジルキリンが1100億円の減損を計上し、473億円の最終赤字に転落した。海外事業での大損を、国内ビール事業の稼ぎで埋める算段か。
ちなみに「沖縄づくり」は福岡工場、「新潟づくり」は北海道千歳工場の製品。そんなまがい物を、誰が飲む!