有名人にバラエティー番組、全国紙の全面広告でイメージアップ。奇抜な訴訟対策も。
2016年11月号 DEEP
2014年夏、ある季刊雑誌に安倍晋三内閣総理大臣の妻、安倍昭恵氏のインタビュー記事が載った。雑誌の名は『Brilliant』。発行元は「EXTEND」という会社だが、実は、本誌が9月号と10月号で紹介した投資金詐取疑惑の震源「Hana倶楽部」の運営会社「Shunka」の関連会社だ。
『Brilliant』は表紙に外国の女優らの写真を使う高級感あふれるつくり。市販せず、Hana倶楽部の会員だけに無料で配られていた。会員によると、雑誌に昭恵氏が載ったことで、会員の間でShunkaへの信頼度は上がったという。
インタビュー記事のタイトルは「今、世界で輝き続けるブリリアントレディ スペシャルインタビュー ~再び、ファーストレディになって想うこと~」。昭恵氏はそこでこう語る。
「私は総理大臣の一番近くにいる存在。皆さんの声を直接届けられる、国民の代表だと思っています」
「過去には後悔することもたくさんあるし、未来を考えれば不安もある。だから過去や未来にとらわれず、今を幸せに生きるのが一番ではないでしょうか」
Shunkaは、活発に活動する中高年「アクティブシニア」を金集めのターゲットとしていた。それだけに総理の妻という立場にありながら自立心旺盛で、活動的な昭恵氏の登場は、願ったりかなったりだっただろう。
昭恵氏の記事のすぐ隣のページには、春華乃会(Hana倶楽部の旧名)会員限定の格安セールの広告が映えていた。
昭恵氏がこのインタビューに応じた経緯について、Shunka関係者は「つないだのはスーパーマーケットを経営する会社の幹部。『中高年を応援する会社』と説明して取材の承諾を得た」と解説する。
Shunkaはファッションショーやカラオケ大会などのイベントを次々と主催し、中高年を中心にHana倶楽部の会員を増やす一方で、そのうち約600人と「加盟店契約」を結び、投資名目で会員や会員の知り合いなど一般の人の老後の貯えから多額のお金を集めていた。年1~3割もの高額配当の約束が武器だった。だが、今年5月下旬、その配当が突然、ストップ。元本も返還されなくなり、会員らが警察に駆け込むなど騒動が広がった。
『Brilliant』のインタビューを受けたのは昭恵氏だけではない。鳩山由紀夫元総理の妻、幸(みゆき)氏もそうだ。昭恵氏インタビュー掲載号の次の14年秋号で、鳩山会館で開催する「愛を伝える マザー・テレサ展」を紹介するかたわら、「友愛」や中高年世代のオシャレについて言葉を重ねている。
「友愛とは人を思いやること」
「年齢は考えないことですね。今の女性は70歳でもまだまだ若いから自信を持ってオシャレをしてほしい」
著名人としてはほかに、ブリキのおもちゃコレクターで知られる北原照久氏や、ブライダルファッションデザイナーの桂由美氏が、飯田正己Shunka会長と「誌上対談」をしている。
Shunkaは、メディアや有名人を、正体を覆い隠すカーテンとして利用してきたと考えられる。
安倍昭恵氏と鳩山幸氏のインタビューが載ったShunka系の雑誌
15年9月13日、浜名湖に面するホテルで女性たちが集うパーティーが開かれた。集まったのはShunkaの会員のうち、「プレジデントクラブ会員」と呼ばれる会員約200人。Shunka会長の飯田正己氏が「皆さんは特別」と話すと、会場で拍手が起きた。
女優の奈美悦子氏が挨拶した会場には、「ビートたけし」「マツコ・デラックス」「中森明菜」「市川海老蔵」など大物芸能人の名前が入った花輪がずらりと並んでいた。ただ、パーティーに参加したある会員がShunka幹部に「本物の花輪ですか」と聞くと、「抗議は来ないから大丈夫」との返事だったという。
東京MXテレビでは、シニアバラエティ「ババカ~~ン」という番組が今年夏まで放映されていた。ハマカーンがMCを務め、飯田会長が出演。Hana倶楽部の中高年会員らの日常をイジって笑いにする番組だ。
広告も欠かさない。今年1月8日、全国紙の毎日新聞に一面全部を使った「Hana倶楽部」のカラー広告が掲載された。「Hana倶楽部は、さまざまな年齢のさまざまな個性にあった、いろいろな楽しみ方をプロデュースしています」とうたう文字の下にはHana倶楽部の会員を募るコールセンターの番号が記載されていた。
関係者は「投資する会員を集めるための広告だった」と明かす。実際に効果はてきめんで、広告のコピーはShunkaの営業の道具にもなったという。有名人、大手新聞の広告が会員の目をくらませ、投資への心理的ハードルを低くする役割を果たしてきたといえる。
だが、化けの皮ははがれつつある。以前の華やかさと比べ、会員への配当が止まった今年5月以降、Shunkaの信頼度はガタ落ちだ。「お金を返して」と言う会員に「返せと言うなら返さない」と、冷たく突き放すようにもなった。
今年夏、東京都千代田区の日比谷中央法律事務所の「訴訟委任状」らしき文書が、投資で損失を被った会員らに出回り、戸惑いが広がった。文書には、弁護士への「委任事項」として「訴訟の提起、応訴、(中略)訴えの取下げ、和解、請求の放棄(後略)」と書かれてあった。
問題は、飯田氏が会長を務める「ロゼッタホールディングス」の顧問だった同法律事務所の五十嵐利之久弁護士が訴訟委任先になっていることだった。五十嵐弁護士の名前は、今年6月にShunkaが事業継続困難になったことを会員に知らせる通知文の末尾にもあり、通知文の作成者だとも考えられていた。
投資で数千万円を失ったある会員は「Shunka側の弁護士が、我々の訴訟の代理人になると呼びかけるなんて、倫理に反する。これではShunkaや飯田氏に損害賠償請求を起こしても、勝手に訴訟を放棄したり、和解したりしかねないではないか」と憤る。
弁護士は原告と被告の双方から事件を引き受けることを禁じられている。五十嵐弁護士は「私は通知文の作成者ではない。訴訟委任状も事務所のものと書式、文言が一部違っている。ロゼッタに渡したものを参考に、誰かが作って会員に配ったのではないか」と話している。誰が何の目的で会員を混乱させようとしているのだろうか。