2016年11月号 DEEP
東京・六本木のビルの谷間を秋風が吹き抜ける。六本木交差点から外務省の公館などがある飯倉片町方面に300メートルほど進んだ右手に、9月に満76歳を迎えた麻生太郎財務相ごひいきの店がある。会員制のバー「Bovary」だ。
会員制バー「Bovary」の看板
この店を運営する「有限会社オフィス雀部(ささべ)」に麻生氏が落とした飲み代は2010年~14年の5年間で少なくとも3419万円と巨額だ。
これが大金持ちで知られる麻生氏個人の財布から出ているのなら問題はないが、実はこれ、すべて麻生氏の政治資金から出ているのだ。
麻生氏の政治資金管理団体「素淮(そわい)会」の政治資金収支報告書を読むと、首相に就任した09年こそ支払いは18万円に過ぎないが、自民党の野党転落後はむしろ解放されたように10年は6回で総額285万5千円、11年は8回計718万円、12年は9回計862万円、13年は11回計798万円、14年も9回計755万5千円と潔い使いっぷりだ。
首相になる前の05~08年の4年間も、計約1100万円がこの店に使われていた。
実は麻生氏は昨年3月、この店にわずか2週間で9回も通い詰めているところを写真週刊誌『FRIDAY』に撮られている。10~14年の5年間は、それこそ野党に転落しようが、東日本大震災が起きようが、お構いなしに政治資金で通い詰めていたわけだ。
だが、使途が疑わしいとみられかねないカネはすべて襟を正して自分のポケットマネーから出すのが、徴税官庁のトップとして相応しい対応というものだろう。政治団体への寄付には、税を控除する制度もあるのだ。
今年6月、舛添要一・前東京都知事が、政治資金の公私混同疑惑で辞任に追い込まれた。しかし、あれだけ多くのメディアに袋叩きにあった「公私混同」の中身はといえば、麻生氏の使い方に比べれば、ずいぶんとかわいいものだ。
舛添氏の弁護人の調査結果によると、09年以降の飲食費で不適切とされたのは、家族との食事など私的な費用と推定された東京の中華料理店での食費(09年3月20日、3万380円)など14件計約34万円。
宿泊費や絵画代を合わせても440万円程度。麻生氏がオフィス雀部に払った額にはとても及ばない。
貧乏暮らしからはい上がり、東大助教授、参院議員、東京都知事の地位を築いた苦労人の舛添氏と、宰相吉田茂の孫として銀の匙をくわえて生まれてきた麻生氏。
生まれ育ちは大きく違うが、二人とも政治資金団体から公私混同を疑われる支出をしていたことに変わりはない。ならばどうして舛添氏は叩かれまくり、麻生氏は不問なのか。
さて、15年の政治資金収支報告書はこの11月に総務省で閲覧可能になる。麻生氏はフライデーされた後も、このバーに通い続けているのだろうか。
今までどおり通い詰めているなら、舛添氏のこともあったので、改めて説明責任の議論が浮上するかもしれない。もし、通うのを控えているなら、これまでのバーへの多額の支出は、「やはり政治活動費ではなかったのね」と疑われることになる。