泥仕合の愛媛「西条市長選」

常軌を逸した依怙贔屓人事で地域対立を煽る青野氏は、合併自治体の市長「失格」だ!

2016年11月号 POLITICS

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西条市の「地域対立」を煽る現職市長の宣伝ビラ

西条市役所

四国屈指の工業集積地、愛媛県西条市の市長選が11月20日に行われる。再選を目指す青野勝市長(59)と、「西条の未来(あす)を創る会」が推す元県議の玉井敏久氏(53)の一騎打ちである。

4年前の市長選で、122票差で現職を破った青野市長の船出は前代未聞の大騒動だった。当選直後に、公約に掲げた庁舎移転問題を覆したため、1カ月後の定例市議会で「不信任」を突きつけられ、市長自らの辞職でなく議会の解散の道を選んだ。

選挙後に招集された市議会で、議員数の3分の2が出席し、再び過半数が不信任に同意した場合、地方自治法の定めにより市長は自動的に失職する。だが、全議員30人中12人が本会議を欠席したため、採決に至らず、市長は首の皮一枚で失職を免れた。

かくも熾烈な「青野降ろし」の背景には、04年の2市2町(西条市、東予市、小松町、丹原町)合併の地域対立がある。東部の旧西条市は人口約6万人、四国有数の製造品出荷額を誇るものづくりの盛んな地域。西部の旧東予市、旧小松・丹原両町は農業地帯であり、1市2町を合わせた人口も旧西条市に及ばない。合併後の初代市長の座には旧西条市長が就き、地元農協を経て東予市長3期目だった青野氏は愛媛県議に転じた。「旧西条」優位は動かない。

前回市長選に挑んだ青野氏は、元小松町長らの支援を取り付け、旧西条偏重と多選批判を繰り広げ、「投票日には旧東予の福祉施設を回り、票を掻き集めた」(市議会関係者)。一方、大票田の旧西条と大半の地元市議、県議を押さえる現職には油断があり、よもやの敗北を喫した。

青野市長に「多選」の澱み

青野勝市長

元県議の玉井敏久氏

失職を免れた青野氏は市議会多数派(主に自公)との関係修復に動くと思いきや、逆だった。腹心の四之宮孝司氏(旧東予市幹部)の副市長選任を提案し、市議会で否決されると、直ちに「市長補佐官」(嘱託職員)に起用した。市議会に背を向ける青野氏の頼みの綱は、同じ慶応大学出身の中村時広愛媛県知事(56)。松山市長も務めた中村氏と青野氏は、「元市長仲間」だ。

9月17日、市総合文化会館で開かれた「青野再選」総決起集会は壮観だった。貸切バス十数台などで集めた参加者は約1300人。主賓の中村知事は「この4年間に青野さんは種を播き、次の4年間で花を開かせる」と持ち上げた。しかし、地元商工業者は「青野市長にはビジョンもビジネスマインドもない」と辛辣だ。確かに経済誌の全国都市成長力ランキングで、10年度全国77位(県内1位)だった西条市は、16年度同487位(同7位)に転落。「鳴り物入りで始めた西条農業革新都市プロジェクトも、内閣府の特区評価が全国最下位となり、このままでは地域間競争で敗北する」(市関係者)。この3年間に総人口が2%減り、若者は5%も減少した。「青野市長は無為無策」と批判が渦巻くのも当然だろう。「西条市の衰退を止める!」と、立候補を表明した玉井氏は旧丹原町出身。四国電力を経て県議を3期途中で辞した。前回122票差の市長選を凌ぐ「大激戦」になりそうだ。

地元記者は「青野市長は2選目と言っているが、旧東予市長3期と合わせると5選になる。多選の澱(よど)みが表れている」と言う。今年4月の市職員の人事で異動した「主査」より上の役職者251人のうち192人(76%)が昇格者となった。結果、西条市の部長級職員は23人となり、西条市より人口が多い新居浜市の部長級11人の倍になった。「選挙対策を狙ったお手盛り人事。市長から『わかっとるな』と声をかけられた職員もおり、市幹部の大半は茶坊主かヒラメだ」(記者)

6月の定例市議会で「3年間の昇格者の内訳を見ると、旧西条市の職員が30%、旧東予市・小松町・丹原町が64%」と、露骨な依怙贔屓人事を追及された市長は答弁に窮した。

事実上の「5選」を目指す市長の執念は並大抵ではない。「市内に28ある公民館で頻繁に市政懇談会を開く傍(かたわ)ら、後援会幹部を非常勤館長に起用して、公民館を集票マシーンに使っている」と揶揄する向きもある。

7月には高齢者の外出を支援する「いきいきバス」を、市内の全バス路線に拡大し、この10月から小中学生の医療費の全額助成を開始した。選挙対策以外の何物でもない。「青野氏が旧東予市長時代の放漫経営によって市の財政は火の車になったが、選挙のためのばら撒きは今も変わらない」(市関係者)

「人事の公正」欠けば衰退

青野市長には「多選」の驕りが覗く。「後援会事務所を借りるため、市長補佐官の四之宮さんが訪ねてきた」(地元業者)との噂が広がっており、「事実とすれば公職選挙法に触れる可能性がある」(市議会関係者)。

3月には、青野市長の自宅近くの不動産を、国道の渋滞緩和の名目で市が買い上げており、「父親が所有していた土地と聞いている」(近隣に住む人)。「不便な場所であり、バイパスを拡幅する必要があると思えない」と市議会関係者は言う。

9月には、自治会関係者から「前東京都知事は公用車の私的利用が大問題になり、それが一因となって辞職に追い込まれた。西条市においては、市長公用車の私的利用は一切ないのか」と公開質問状を突きつけられた。

9月末の決算審査特別委員会で、「市長自身の後援会新春交歓会に公用車で行った」「企業との懇談会後の2次会に、公用車で出かけ、夜遅く帰宅した」と追及を受け、市当局は「公務の流れの中で公用車の使用が認められることがある」と弁明に四苦八苦。疑惑が深まった。

市民から情報公開請求を受けた市当局は「市長車の運行記録」を明かしたが、市民側は市長の活動記録(日誌)を、新たに情報公開請求し、泥仕合になっている。

青野市長としては、市議会の多数派が推す玉井候補を粉砕し、自らの権勢を盤石にしたいのはやまやまだろうが、地域対立を引きずり、4年間を空費した感は否めない。どんな組織でも「人事の公正」を欠けば、人心が荒廃し、行政の衰退を招く。常軌を逸した依怙贔屓人事で地域対立を煽る青野氏は合併自治体の市長「失格」である。

   

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