2016年8月号 DEEP
徳川家康生誕の地として知られる愛知県岡崎市。今年7月、市制100年を迎えた人口38万の中核市で、セクハラ騒動が市議会を揺るがしている。
1人の女性市議(44)をめぐり男性市議2人がセクハラ行為をしたとする記事を中日新聞が再三にわたって掲載。「加害者」とされた2人が6月28日、「事実無根の報道で市民の信頼を失った」として、それぞれ中日新聞社や女性議員に対し1100万円の損害賠償を求める裁判を名古屋地裁岡崎支部に起こしたのだ。さらに市議会も7月6日、各派代表者会議を開き、中日新聞社に対し訂正記事の掲載を求める異例の決定をした。
報道された女性議員へのセクハラは▼A議員(43)は口頭やメールで性的関係を求めた▼B議員(62)は視察旅行先の都内ホテルの部屋で無理矢理抱きついた、というもの。後者の疑惑は2年前のもので、女性議員は議会事務局に相談したが結局「当事者間の問題」とうやむやになったという。
報道後、2人は相次いで弁護士とともに記者会見を開き、「メールの一部だけを意図的に切り取っている」(A議員)、「同意のもと部屋には入ったが事実無根」(B議員)などと、いずれも全面的に否定。妻を同席させて「無実」を主張した。一方、女性市議も記者会見を開き「セクハラは事実。謝罪して議会のウミを出してほしい」などと訴え、TBS「白熱ライブビビット」に出演して赤裸々に被害を語った。
互いに徹底抗戦の構えで騒動が法廷に持ち込まれた背景には、今年10月に控えた市議選がある。4年前の前回は、定数37に対し45人が立候補する激戦だった。いずれも自民党系のA、B両議員はそれぞれ23位、26位で当選し、一方、大村秀章・愛知県知事が代表を務める「日本一愛知の会」が擁立した女性議員は36位に滑り込んだ。
今回の騒動はまさに次の選挙に向けた動きが本格化するさなかに勃発。中日新聞は県内で157万部を発行し、圧倒的シェアを誇るだけに反響は大きく、両男性議員の支援者らは「女性市民の反発が収まらない」と、頭を抱える。市民からは議会事務局にも男性側を非難する電話が相次いでいる。
また、騒動の対応にあたった市議会議長(64)も中日新聞に「『(セクハラ問題は)議会事務局が対応すべきことではないので、持ちこまないでほしい。今後は事務局に相談しないように』と女性を口頭で注意した」「責任追及を断念した」などと報道され、自らの支持者から厳しい声が寄せられたという。
危機感を抱いた議長は、年5回全戸配布される「市議会だより」の8月1日付に急遽、セクハラ騒動の経緯と議会の対応、中日新聞への訂正要求を盛り込む策を打った。「誠実に対応してきたことをとにかくわかってほしい」(議長)と、降りかかった火の粉を払うのに必死だ。しかし当事者たちの一連の会見の中で、公務で視察旅行中の市議らが深夜、3次会まで痛飲していた呆れた行状も明らかになり、市民からは別の怒りの声も上がっている。
報道を真っ向から否定された中日新聞社は「記事の内容には自信を持っている」とコメント。また、提訴された女性議員は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。