複合小売業で世界初 「オムニ7」がお買い物を変える

ネットとリアルの融合を目指し、セブン&アイが多様なグループ企業を連携する先進的な取り組みをスタート。

2016年3月号 INFORMATION
取材・構成/編集部

  • はてなブックマークに追加

店頭で商品を受け取れば送料無料。返品もセブン-イレブンでできる

「オムニチャネル」という言葉が、この1、2年、ビジネスの場でよく聞かれるようになった。リアル店舗とネットなどあらゆる販路を統合し、どのチャネルからも購入できるようにする米国発祥の小売戦略のことだ。単なる売り方の多角化ではなく、販路間の垣根をなくし、顧客の満足度アップにつなげる、いわば「小売の最終形」である。ただ、日本で取り組む企業はまだまだ少数にとどまる。

そんな中で大手流通グループのセブン&アイが昨秋、数百億円をかけ、米国でも例のない規模でオムニチャネルをスタートさせた。傘下の多様な業態をシームレスに結んだ「omni(オムニ)7」である。

受け取り、返品もコンビニで可能

オムニ7のロゴ

オムニ7のサイト

スマホ用のアプリもある

オムニ7のウェブサイトは、昨年11月にグランドオープン。コンビニ、スーパー、百貨店、専門店と多彩な店舗がウェブ上に一堂に会し連携する買い物サービスだ。

オムニ7のウェブサイトを開くと、トップページにイトーヨーカドーや西武・そごう、赤ちゃん本舗などのおすすめ商品が並ぶ。会員ID一つで、前記ほか計八つのストアにアクセス、注文が可能だ。取り扱うのは食品からブランドもののファッションや家具まで、多岐にわたる。

現在オムニ7に掲載されている商品は約300万アイテム。商品数では、大手通販サイトに分があるだろう。だが「何でも扱う総合サイトではなく、扱う商品に責任を持つことを最優先」(グループ企業のトップ)という方針の下、オムニ7は一般の通販サイトとは一線を画す特色を掲げる。全国1万9千店もの店舗を持つグループならではの、顔の見える安心感をベースにしたサービスだ。

たとえば、オムニ7を通じ百貨店や専門店の商品を注文すると、宅配だけでなくセブン-イレブンやイトーヨーカドーなどグループ各社の店舗でも受け取れる。一人暮らしの女性は特に店頭での受け取り希望が多い。実証実験では、注文した人の7割が近所のセブン-イレブンでの受け取りを選択したという。返品もセブン-イレブンで可能。わざわざ宅配便などで発送する必要がなく、しかも店頭での返品は送料無料だ。

また、ブランドものを購入すれば、並行輸入品などと違い百貨店の正規ショップでメンテナンスが可能。プレゼント用の商品は、百貨店や専門店の店頭で購入するのと同じようにプレゼント用に包装し、お店の袋に入れた上で梱包する。一般の通販サイトではここまでは期待できない。

店に在庫がなくても、店頭のタブレットを通じて商品をその場で注文することもできる。受け取りや返品で来店した人の6割は店でついでの買い物をするというから、リアル店舗の活性化にも結びついている。

魅力ある商品開発で相乗効果

セブン&アイホールディングスの鈴木敏文会長兼CEO

単なるネット通販でなく、リアル店舗並みのホスピタリティや安心感を備えたサービス。それがオムニ7の特色だろう。しかし、オムニ7開始時にセブン&アイが重視したのは、何よりも「魅力ある商品」だったという。

実は同グループの鈴木敏文会長兼CEOは、オムニチャネルという言葉が出てくる以前の2000年ごろから「ネットとリアルの融合」を口にしていた。13年8月、グループの戦略会議の席上で鈴木会長がオムニチャネルへのシフトを宣言すると、1カ月後には傘下の事業会社トップら50人ほどが多忙の中集結、米国に渡り、現地の実情を視察した。同年10月には「オムニチャネル推進プロジェクト」が発足。外部の専門家も加わり、システムや物流などさまざまなオムニの機能を実現するために動き出している。

その際、中心になったのはプロジェクトだけではなかった。「オムニは一つの仕組みに過ぎず、最終的にお客様に提供するのは商品だから」(同社首脳)だ。各社のトップがリーダーとなり、本業と並行して毎週のようにミーティングを行い、指示を飛ばした。その結果が、会長宣言からわずか2年ほどでのオムニ7実現につながった。

商品重視の好例が、昨秋からイトーヨーカドーや百貨店の店舗とネット両方で展開している新しいプライベートブランド(PB)、「ジャンポール・ゴルチエ フォー セットプルミエ」。オムニ7を宣伝媒体としても活用、閲覧件数は10日間で170万件を突破し、リアル店舗にこれまで顧客でなかった人が多数来店。他の売り場でも売り上げが伸びる相乗効果を生んだ。ゴルチエ以外にもオムニ展開を念頭に、バイエヌ、ボンボンホーム、バイロフトなど、ファッションや生活用品をはじめとするPB商品開発を継続、販売が始まっている。

セブン&アイは昨年、ファーストリテイリングと業務提携を結び、話題を呼んだ。その他にも今後、グループ各社の商品拡充、商品開発に加え「外部との提携」等により18年には商品数を600万アイテムに増やしていくというから、思いがけない展開も期待できそうだ。

鈴木会長はオムニチャネルによって「小売業のあり方が一変する」と発言している。先進的な取り組みによりこれからの流通の景色がどのように変化していくのか、注目が集まっている。

   

  • はてなブックマークに追加