2016年3月号
連載 [永田町 HOT Issue]
by 鶴保 庸介(自民党参議院議員)
私が国土交通大臣政務官・副大臣時代に取り組んだ「中古住宅市場の活性化」は、今や私のライフワークになっている。そもそもの問題意識は「持ち家資産を何とか資金化できないか」ということである。地元の和歌山で、立派なお宅にお住まいの老夫妻が、生活資金を年金だけに頼っている姿を、幾度となく目の当たりにしたことに始まる。人々が苦労して手に入れた大切な我が家を必要な時に資金化できたら、生活資金だけでなく高齢者住宅への住み替え原資ともなり、ライフステージに応じた豊かな生活が送れるようになる。もし、中古住宅が市場でもっとスムーズに取引されるようになったら、国民の住まいの選択肢は増え、高齢者のみならず、所得が伸び悩む若年層も手頃な住まいを買い求め、住み替えが容易になる。
昨年6月、私は自民党の「中古住宅市場活性化小委員会」の委員長として、中古住宅市場の課題に徹底的にメスを入れ、市場の大胆な改革を促す提言を行った。その概略を紹介しよう。
我が国では戦後の爆発的な人口増加に対応し、住宅はともかく数の確保が最優先だった。結果、今でも「優良住宅」の割合は11%程度にすぎず、人口減少とともに都心部に多くの空き家が発生する事態を招いている。ちなみに空き家の発生は年間60万戸強。新築着工は年間80万戸強だから、人口減少下でも住宅戸数は増え続けているのだ。
その要因の一つは、開発業者が相続税対策と称してサブリース契約の郊外アパート経営を推進してきたことがある。サブリース物件の評価は難しいが、木造戸建ての住宅が、築後20年程度で一律価値がゼロとされる市場慣行のもとでは、よほど収益性の高い物件でない限り、売れない中古住宅を大量生産していることになる。
また、都心にまで多くの空き家が発生し、社会問題化しているにもかかわらず、複雑化した相続事情により登記情報が役立たず、納税者情報は個人情報(非開示)であるため、所有者にアクセスできない「どうしようもない」状況が続いていた。最近施行された空き家対策特別措置法によって、除却のため一定の要件を満たした「特定空き家」の納税者情報を公開することになりはしたが、民間業者が再開発・再活用を進めるには極めて不十分な状態である。
空き家になる直前の状況を想像してみよう。子どもたちが独立した家に住む老夫婦は、少し狭くとも駅の近くで買い物が便利な家に住み替えたいと思うのではなかろうか。ところが、我が国には中古住宅を適正に評価する市場が存在しない(売主・買主間の物件の質に関する情報の非対称性により透明性の低い市場しかない)から、売りたくても売れない。結果、我が国の中古住宅のシェアは住宅市場全体の15%に満たず、6割以上を中古住宅が占めている欧米と比べ、極めて小規模にある。また、住宅のストック額も、これまでの住宅投資累計額より500兆円以上小さい額となっており、国民資産が有効活用されず、無為に失われていく。
我が国の中古住宅市場に横たわる諸課題を抜本的に解決するため、今こそ大胆な改革に着手する必要がある。昨年、その処方箋をまとめた『中古住宅市場/活性化に向けた提言』(住宅新報社)を刊行したので、是非ご覧いただきたいが、特に重要なポイントは、次の2点である。
第一に、中古住宅の流通活性化には、その前提となる不動産取引の透明性・安全性・信頼性の向上を図ることが不可欠である。ところが、宅地建物取引業者の中には、売主・買主の双方から仲介手数料を得ることを目的として、正当な理由なく他の業者への物件紹介を拒否するなど、いわゆる「囲い込み」を行う者が存在する。場合によっては、民法で禁じられる双方代理ともなりかねない。
私は、他の事業者への紹介ができない状態であるか否かをシステム上に客観的に明示させるとともに、売主が自らの物件の登録状況を確認できる仕組み(ステータス管理機能)を早急に導入するよう提言した。それでも「囲い込み」がなくならない場合には関係法令を改正し、違反者への処分・罰則強化を検討すべしと、一歩踏み込んだ。
第二に、中古住宅市場の活性化に当たっては「中古住宅は新築住宅に劣る」というイメージの払拭が必要であり、そのためには中古住宅の質を向上させるとともに、住宅の質や維持管理の状況等が的確に伝えられる環境を整えることが重要だ。百聞は一見に如かずというが、買主が自らの目で物件を確かめ、品質に納得して購入できるようにするのが一番だ。
次に前述した築後20年程度の戸建住宅の一律価値がゼロとされる市場慣行を打破しなければならない。1億円かけた堅牢な家と、数百万で建てた家が築後20年に評価がなくなるような慣行は常識的でないからだ。
活性化小委員会は、中古物件の管理状況が分からないといった消費者の不安を解消するため、売主からの物件の状態やリフォーム履歴等の情報開示の促進を提言。さらに専門性を有する第三者による建物検査(インスペクション)の活用や住宅性能表示制度の普及に取り組むべきと提言した。
小委員会は八つの提言の内容を、できるだけ速やかに実施していくため、今年度内に実現すべき事項を「早急に取り組むべき事項」として整理し、喫緊の課題として打ち出した。この提言の速やかな実行により、国や事業者、国民の行動にも大きな変革がもたらされ、今年が中古住宅市場の「流通革命元年」となることを願っている。