2016年3月号
連載
by 宮
展望窓から望む1・2号機の排気筒(2月3日、本誌イチエフ取材班/宮嶋巌)
排気筒側から吹く風に跳ね上がる線量計(代表撮影/電気新聞)
標高35メートルの高台から望む3号機建屋
イチエフの小野明所長
We support 1f!(免震重要棟で)
真っ黒な土嚢の壁を踏み越え、標高35mのイチエフの高台に立つ。眼下に四つの原子炉建屋と、青空に120mの白い排気筒がそそり立つ。原発内の空気はフィルターなどで処理された後、モニターで放射線を測定し、安全を確認してから排気筒から放出される。この排気筒の根元は、今も放射能の魔界だ。2013年12月、線量計の限界値を遥かに超える毎時25(Sv(2500万μSv)の超高線量が計測された(その場に20分いるだけで死に至る)。
15年10月、長い棒の先に線量計を付けて再測定したところ2Svに下がっていたが、作業員が近づけるレベルではなく、除染もフェーシング(舗装)も手つかずだ。排気筒を支えるやぐらのような鉄骨の、高さ60m付近の接合部で破断と変形が見つかっているが、肉眼では確認できなかった。万一、地震などで倒壊したら排気筒内の放射能が飛散するため、一刻も早く撤去しなければならないが、底部の超高線源を除去する手立てがなく、監視員が遠巻きに見守るだけだ。排気筒側から風が吹きつけると、線量計が300μSvに跳ね上がった。
イチエフを訪れるのは8度目。ロッカールームやトイレで初めて外国人労働者と擦れ違った。南米系と思しき小柄な男性に「こんにちは。ご苦労様」と、日本語で話しかけたが、返事はなかった。小野明所長は「外国人の採用は協力会社の判断に任せてあり、技量が確かであれば問題はない」と言う。
現在ここで働く作業員は1日約7千人。東電は外国人労働者の総数を把握していないが、すでに数十人に達している。「東京五輪が近づくと人の確保が難しくなる。現場に支障が出ないよう、協力会社とよく対策を練ります」(小野所長)。イチエフは世界でここだけの過酷な現場――。世界の耳目を集める「放射能の迷宮」である。