2016年1月号
連載 [永田町 HOT Issue]
by 近藤 洋介(民主党衆議院議員)
日本のエネルギー政策の根幹として官民一体で進めてきた「核燃料サイクル」が揺れている。原子力規制委員会は11月13日、文部科学省に対し、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)の運営主体の変更を求める勧告を提出。半年の期限内に新たな運営主体が見つけられなければ、「もんじゅ」の廃炉は避けられない見通しだ。総額1兆円を投じた国策プロジェクトの迷走は、現実逃避を繰り返してきた日本の政治と行政による「不作為の罪」の象徴である。
核燃料サイクルは原発の使用済み燃料から、まだ使えるウランやプルトニウムを取り出し、再処理工場でウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として再利用する政策。高速増殖炉は消費した以上の核燃料を生み出すことが出来るため「夢の原子炉」とされてきた。原油や天然ガスを輸入に頼る日本にとって、使用済み燃料が「国産エネルギー」に生まれ変わるためだ。
高速増殖炉は、放射性廃棄物問題の解決策でもあった。通常の原発の使用済み燃料は高濃度の放射性廃棄物が通常レベルに戻る期間は10万年。これに対して、高速増殖炉の使用済み燃料は300年で通常レベルに戻る、とされる。放射性廃棄物の最終処分場の目処が立たない中で、後世に「核のゴミ」を残す期間が格段に減ると期待されている。
政府は1967年に実験炉の「もんじゅ」開発を担う動力炉・核燃料開発事業団(動燃、原子力研究開発機構の前身)を設立。動燃は83年に原子炉の設置許可を取得、94年に運転を開始した。しかし、95年12月にナトリウム漏えい事故を起こして運転を停止。その後も度重なるトラブルや機器の点検漏れなど安全の根幹に関わる問題が発生してきた。
このため、電力各社は高速増殖炉実現までの「橋渡し」として、通常の軽水炉でMOX燃料を燃やす「プルサーマル方式」を採用することになっている。
「もんじゅ」に投じられてきた国費は建設費5886億円を含めて1兆円を超える。しかし、運転開始から現在まで稼働したのは僅か2、3カ月間。実用化の目処どころか、「投資に見合った研究データも得られていない」(電力関係者)。
受け皿は見つかりそうもない。規制委は運転主体の条件として「十分な知見がある」ことを挙げている。軽水炉の通常の原発と高速増殖炉は構造が異なる。しかし、「もんじゅ」のトラブルが続く中で人材育成も滞っている。
電力各社も及び腰だ。電力システムの自由化を受け、規制料金・地域独占が崩れた。護送船団方式は通じない。この半年間で、規制委の安全基準に合格していない実験炉を新たに抱えるリスクを取る企業が名乗りを上げるとは到底考えられない。
では、どうするか?
私の結論は、こうだ。「もんじゅ」を早期に廃炉にする。原子力研究開発機構の解体も含めた抜本見直しを断行する。その上で、高速増殖炉の開発については、これまで培ってきた人材・ノウハウを十分に生かしつつも日本単独路線を転換し、国際共同開発プロジェクトを推進する。さらに、青森県六ヶ所村の再処理事業についても、事故の際の国の責任を明確にした体制に改める。核燃料サイクル体制の仕切り直しを求めたい。
「もんじゅ」には、これまでの総事業費1兆円に加え、停止中の現在も年間200億円もの維持費がかかる。停止プラント内でも、熱を取り出す冷却材のナトリウムを循環させる作業などが必要なためだ。既に、運転開始から20年超が経過している旧式の動かない「巨大なオブジェ」に年間200億円の税金を投じているのだ。早期に「損切り」=「廃炉」に踏み切るべきだ。
同時に、後継プロジェクトも急がなくてはいけない。
日本は非核保有国の中で、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理ができる唯一の国だ。「冷戦戦略上、米国から例外的に日本だけが認められてきた」(政府関係者)とされる。
国内で貯蔵されている使用済み核燃料は約1万7千トン。青森県六ヶ所村にある再処理工場でMOX燃料を製造する計画だが、稼働は当初計画から数年遅れているのが実情。プルトニウムを使用する有効手段である高速炉計画を諦めれば、仮に原発を新増設しなくても、余剰プルトニウムの核兵器への転用を疑われかねない。
日本に使用済み核燃料の再処理を認めてきた日米間の条約「日米原子力協定」が2018年に期限切れとなる。18年までに「ポストもんじゅ」が示されなければ、米国が協定延長を認めない可能性もある。
使用済み燃料の処理は各国共通の課題である。巨額な技術開発費のコストの点から考えても、「ポストもんじゅ」は国際共同開発が唯一の活路となる。現在、フランスが進めている第4世代技術実証炉「ASTRID計画」などを軸に検討を急ぐべきだ。
電力会社が共同出資して運営している使用済み燃料の再処理事業(青森県六ヶ所村)の体制も見直しが避けられない。
同事業には既に2兆円を超える資金が投じられている。本格稼働には、規制委員会の新たな安全基準に対応するため、数千億円の追加投資が必至。今後の工事費を考えれば、発電会社と送電会社に分割されて規模の小さくなった電力会社が対応できる範囲を超えている。
そもそも、再処理工場で万が一の事故、事件が起きた際に民間企業が責任を負いきれるのか。プルトニウム抽出という事業自体、純粋な民間出資会社には馴染まない。国の政策に沿って民間企業が運営する「国策民営方式」という責任の所在が極めて曖昧な方針自体を見直し、国と企業の責任範囲を明確に線引きすべきである。
核燃料サイクルの再設計はエネルギー政策の骨格に直結するテーマだ。被爆国であり、原発の「恩恵」を受けてきた日本。そして、福島原発事故を経験した日本。使用済み燃料の平和利用の技術を確立して核不拡散に貢献することは、被爆国としての使命だ。今こそ、事業責任の明確化が必要だ。原発輸出に熱心な安倍政権だが、この「不都合な真実」からは目を背けている。16年の通常国会では、本格的な論戦を挑みたい。