異次元緩和の長期化で地銀の潜在リスク拡大

大久保 豊氏 氏
日本リスク・データ・バンク社長

2016年1月号 BUSINESS [インタビュー]

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大久保 豊氏

大久保 豊氏(おおくぼ ゆたか)

日本リスク・データ・バンク社長

1962年生まれ、84年慶応大学経済学部卒。住友銀行入行。企画部などを経て89年、英ケンブリッジ大学政治経済学部大学院修了。マッキンゼー&カンパニーなどを経て、2000年に日本リスク・データ・バンクを設立した。

――大久保さんが危機感を抱き、日本リスク・データ・バンク(RDB)を作るきっかけとなった1990年代後半から、金融機関のリスクは様変わりしました。

大久保 90年代後半はバブルの後始末の不良債権処理が、銀行の根幹を揺るがせていました。しかし信用リスクを科学的に分析し、管理する手法が確立されておらず、不良債権の総額すら不明という有り様でした。

信用リスク分析の必要性を感じてかつて上司だった西川善文氏(のち三井住友銀行頭取)に相談、快諾を得ました。三菱銀行(現三菱東京UFJ)の三木繁光頭取などの方々の賛同を得て、当時の都市銀行から地方銀行まで出資していただき、RDBを設立した経緯があります。

銀行大再編、自己資本規制(バーゼルⅡ)、デフレ長期化などの激動期に信用データを蓄積し、リスク計量の共同データベースとスコアリングの作成と運用を進めて15年経ちました。2008年のリーマン・ショックを経た現在は、日銀の異次元緩和の長期化に安住しているという危うい状況です。緩和が終われば、瞬時に銀行が消滅してしまうリスクに曝されますから。

過去最高益「安住」は今だけ

――RDBは地銀とも協力関係にあるわけですが、金融庁は地銀のあり方に強い危機感を持っています。

大久保 改革の陣頭指揮を執っている森(信親・金融庁)長官とも意見交換をさせてもらっていますが、危機感は相当なものだと思います。

――森長官の危機感は、今後生き残るためのビジネスモデルを持っている地銀が少な過ぎるというものですね。

大久保 異次元緩和がある意味で危機感を薄めてしまっています。金利が少し上がるだけで、たちまち大赤字に転落しそうな地銀がかなりあります。銀行の選別は始まっていると思います。実際問題として、地域を跨いでビジネスをしようとしている銀行などが出てきています。合併の動きが加速しているのもそのためです。

――表面化していない地銀のリスクとは具体的にどういうものでしょうか。

大久保 異次元緩和が実施されて以来、金利はある意味で“官製金利”も同然です。ほぼゼロ金利に近い状態で、長短金利のスプレッドが薄くなり、利ザヤを稼げない状態が続いた。そこで地銀が行ったのは国債の買い入れ、そして投資信託の売買でした。一方で、貸し出し分野は異次元緩和に隠れて顕在化していませんが、地方経済の沈滞とともに明らかに劣化している。理由は簡単で、貸し出し金利のダンピングを競ったからです。

――でも、地銀は15年3月期決算で過去最高益を出していますね。

大久保 そこがまさに地銀の危機感が乏しい理由なんです。でも、実態をつぶさに見れば、(アベノミクスによる)融資先の戻し利益と株高に尽きます。金融庁が求めている“ビジネスモデル”を構築しているわけではない。今後の金利リスクを避けるためメガバンクにならって国債保有を圧縮していると言っても、その分を日銀の当座預金に積んでいるだけです。貸し出しに回すわけではない。欧州中央銀行(ECB)のようにマイナス金利になったらどうなります? たちまち、逆ザヤのリスクに直面するんですよ。

金融の指針が変わりつつあるのに、まだ投信の回転売買を銀行の利益の柱にしたり、投信のセールスに来る人のセールストークをそのまま経営計画に織り込んでいるところは、やはり厳しい状況に追い込まれるでしょう。

――ビジネスモデルを、と言われても金融庁はそうした指導をしてこなかった。金融庁が変わってきたのは、畑中龍太郎元長官時代からですかね。

大久保 金融監督庁が金融庁に改組された00年以降、何かといえば行政処分の乱発でしたから、地銀に限らず金融機関は金融庁の顔色ばかりをうかがうようになりました。地銀トップも金融庁と角の立たないような人が選ばれるようになった。この現状を打破するには、金融庁も痛みを伴う変化を求めるようになったのです。その意味では、まずは稼ごうとしている銀行と、まだ金融庁の意図を汲み取れない銀行との差がはっきりしてきました。

フィンテックで動態モニターを

――少子高齢化と地方過疎化のなかで地銀が稼げる場所はありますか。

大久保 例えば、金融の世界を一変させるのではないかと言われる「フィンテック」(FinanceとTechnologyの融合)。地銀にとってもまさに革命だと思います。単にバンキングにスマートフォンを使うだけではありません。決済とか振り込みとかの消費者サイドだけでなく、銀行はビッグデータの宝庫なんです。動態モニタリングがこれで可能になる。一つの口座から商流をたどっていけば、東京圏とつながるとか、アジア圏とマッチングできるとか……可能性はどこまでも広がります。

RDBも実際に肥後銀行、百十四銀行、四国銀行などと協力してそうした試みを始めています。これからもどんどん続くでしょう。フィンテックによって、お金を地元にどう流し込むかという視点に地銀は立てますし、この分野に真剣に取り組めば、地銀は強みを発揮できる。チャンスなんです。

――新しいサービスが創生できる?

大久保 ええ、たくさんあります。フィンテックで口座を活用できれば、口座を通じて企業の状況も天気図のように把握でき、与信情報になるばかりか、刻々と変わる外部環境に合わせて適宜アドバイスも送れる。業績の先行きもいち早く予測し、肝心なときに「貸しはがし」をするような遅れもなくなります。地方創生は地銀の担うべき大きな役割の一つです。インバウンドを吸収できるプロジェクトを国と立ち上げる必要があると思います。また企業の尻を叩いて設備投資を促すくらいなら、銀行に投資させるべきです。銀行には5兆円も眠っているのですから。

   

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