日本経済に吹く「四つの風」

2015年12月号 連載 [永田町 HOT Issue]
by 西田実仁(公明党参議院議員)

  • はてなブックマークに追加

いま「日本丸」という大きな船の航行にブレーキがかかっている。行き先は明確だ。2020年度までにGDP(国内総生産)を600兆円に成長させることだ。だが、そのエンジン役を誰に担わせるのか、この大きな船を揺さぶる「四つの風」にどう対処していくのかは、いまだ不透明である。


どんなに政労使の会議を行い、設備投資を促し、賃上げを要請しても、GDPギャップがマイナス(2015年4~6月は8・1兆円の需要不足)の局面では、企業は設備投資には及び腰となる。まずは、需給ギャップの解消こそが先決となる。


日銀「追加的緩和」の条件

「強い経済」のエンジン役は、民間企業の従業員の3分の2、付加価値の5割以上を占める中小企業(零細企業のみではなく)である。


事実、景気回復にブレーキがかかっている現状でも、人件費上昇率や設備投資増加率、また経常利益の増益率のいずれも、資本金1億円未満の中小企業が全体を牽引している。今こそ、中小企業に光を当てるべきである。具体的には、中小企業税制の抜本改正を言いたい。例えば、所得金額が年800万円以下に適用されている軽減税率(本則19%が15%に軽減)の適用金額を2千万円ほどに引き上げること。中小企業の中で最も多い層は、売上高1千万〜3千万円だからである。


日本経済に吹く「四つの風」について触れたい。北風、南風、東風(貿易風)、西風の四つの風だ。


北風は、米国の出口戦略に伴うドル高不況、それによる中国や新興国経済の減速、南風は原油をはじめ、国際商品の下落に伴う、新たな価格体系への移行、そして東風(貿易風)はTPP発効による自由経済圏の拡大、西風は消費税増税による格差の拡大である。この四つの風のそれぞれに、上手に対処できなければ、日本丸は漂流を始めることになる。


まず北風である。米国の出口戦略に伴うドル高不況が世界を覆っている。昨年10月29日、FOMCが資産買入停止を決定してから、ドルの実効レートは上昇を始め、世界の貿易量は減少、主要国際商品価格はドル高のために暴落、新興国の対外ドル債務は増加している。ドル急騰は、それとリンクする人民元高を招く。06年に始まった米中戦略経済対話は、人民元の引き上げで合意、その後、対ドルで5割の上昇を続けている。米国が仕組んだ人民元高騰が、元高不況を招き入れていることは明白だ。ちょうど、1983年11月11日の「ロンヤス会談」で円ドル委員会が設置され、円高、バブル崩壊へとつながったように。


中国失速の影響は、日本からの輸出減少となって現れてくる。日本の対中輸出は、直接、間接(対中国輸出依存度10%以上の15カ国への日本の輸出依存度)を合わせて56%。ざっと計算すると、2兆円ほどのマイナスのインパクトがある。


対策としては、再開された日中韓協議の中に、三通貨間の安定も議題とすること、人民元のSDR通貨バスケット採用を支援するとともに、米国には利上げ先送りを要請すること。仮に、人民元がさらに10%以上下落する時には、日銀は追加的な量的緩和を実施すべきだろう。輸出減少による景気対策としては、即効性のある財政支出で、中小企業対策を中心に内需を刺激するしかない。


次に南風の原油価格下落に伴う新価格体系への移行(価格転嫁)には、日銀は物価2%目標に過度にこだわることなく、円安を回避するのが正しい。せっかく原油価格が下落しても、円安が進めばその下落効果は剥落してしまう。とともに、物価2%目標へのこだわりは、原油下落の価格転嫁を遅らせてしまう。


東風(貿易風)への対処は、サービス産業の生産性向上、対内直接投資の促進、徹底した規制改革などの課題だけを指摘しておきたい。


低所得者層に3兆円給付

最も強調したいのは、消費税増税による格差拡大である。この「西風」は強烈だ。消費税が5%から8%へ引き上げられた結果、最も直撃を受けたのは、所得の低い層である。


右のグラフをご覧いただきたい。昨年1年間で、消費が最も落ち込んだのは、所得が最も少ない第1分位の前年比マイナス2・8%である。


消費税が上がっても、食費は抑えきれない。しわ寄せは食品以外の消費に及ぶ。下のグラフで年間所得200万円以下の世帯は、食品を除く消費支出は、同マイナス12・9%と大きく落ち込んでいる。200~999万円プラス0・8%、1千万円以上プラス1・0%、全世帯プラス0・9%である。


消費税増税だけではない。食料品価格が上昇し、円安がそれに追い打ちをかけている。賃金はたしかに回復しているものの、消費税増税負担と食品値上げ負担が低所得層の消費を抑制していることは明らかだ。


やはり、ここは「民のかまどの煙」に心を寄せるべきだ。本来、消費税が5%から8%へと引き上げられる時に導入すべきだった軽減税率は、その適用対象をできるだけ広くして導入を図り、消費税10%の環境を整えなければならない。米国の利上げと中国、新興国の不況により、最大限の軽減税率導入がなければ、消費税10%は容易ではないことを肝に銘じるべきだろう。


加えて、所得の低い層を中心に、3兆円ほどの給付により、消費を刺激することも必要になってくる。財源は、税収の上振れに求められる。おそらく、今年度も所得税を中心に、税収は上振れする。10年度から6年連続の税収増だ。


2年や3年なら、国民に約束した税収見込みと決算との違いがあることは認められるが、6年も続くとなると、税収増は初めから組み込まれている気にさえなってくる。デフレ時代の低い租税弾性値を用いた税収見込みの限界だ。

著者プロフィール
西田実仁

西田実仁(にしだ・まこと)

公明党参議院議員

1962年東京都出身。慶大経済卒。週刊東洋経済の副編集長を経て04年参院初当選(2期目、埼玉選挙区)。党参院幹事長。

   

  • はてなブックマークに追加