国立市が元市長に襲いかかる「スラップ訴訟」で注目の判決

2015年11月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]

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上原公子・元国立市長

景観保護を市是としてきた東京都国立市で、全国の自治体首長が注目する訴訟が最終局面を迎えている。

事の発端は、同市大学通りに巨大マンションを計画した建設会社・明和地所との15年越しの訴訟沙汰。「学園都市の美観を損なう」と主張する住民の会は、5万筆もの署名を付して建設反対を市議会に採択させたが、明和は工事を断行した。

当時の上原公子市長は、臨時議会で「建築物の高さを20mに制限する条例案」を可決。これに対して明和は市を相手に条例無効と損害賠償4億円を求めて提訴。一審は明和に20m以上の部分の撤去を命じたが、二審は条例を適法・有効としながらも営業妨害として市に2500万円の賠償を命じた。国立市は2008年、明和に遅延損害金含め約3124万円の賠償金を支払ったものの、明和は同額を寄付金として市に返還し、市の実質的損害は無くなり、一件落着となるはずであった。

ところが09年、市民4人が、市が明和に払った賠償金を、上原元市長に支払わせる訴訟を提起した。一審は市に対し、上原元市長に支払いを求める判決となり、関口博市長(当時)は不服として控訴したが、11年の市長選挙で自・公推薦の佐藤一夫氏が市長に当選するや控訴を取り下げ、上原元市長に賠償請求訴訟を起こした。さらに佐藤市長の下で市は開発偏重へスタンスを変えていった。

被告の上原元市長は法廷で「裁判の間中、まるで明和と争っているような違和感を拭えなかった」と訴えた。市側が出す証拠がことごとく明和が出してきた証拠だったからだ。「政敵・上原公子と市民自治潰し」のスラップ訴訟の様相を呈した。

一審は、市議会からの再三の「債権取り立てを放棄するよう求める決議」を重く見て、佐藤市長の「権限乱用」として市が敗訴。市は控訴し、9月10日、6年に及ぶ裁判は結審した。万一、司法が元市長に賠償を求める判決を出すと全国の首長の活動を委縮させ、市民自治を後退させかねない。注目の判決は12月22日、東京高裁の法廷で下される。

   

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