あざとい九電が「太陽光」封殺

地元メディアを洗脳し、太陽光に「厄介者」の烙印押した権謀術数。川内原発の再稼働で高笑い!

2015年11月号 BUSINESS

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再生可能エネルギーの雄として期待され、急速な普及が続いていた太陽光発電に冷水を浴びせ、安定的な送電体系を撹乱する「厄介者」の烙印を押したのが2014年9月に起きた「九電ショック」である。経済産業省から設備認定を受けた施設が全部稼働し、送電網に接続されると発電容量が1260万キロワットに達し、電力消費が小さい春や秋の昼間の需要量(800万キロワット)の1.5倍で、安定供給に支障が出ると説明した。クリーンイメージで売って来た太陽光発電を、一瞬でダーティーなエネルギーに仕立てあげた手腕は見事と言うしかない。

九電工案件はフリーパス

九州電力の瓜生道明社長

Jiji Press

伏線はあった。14年4月から、再生可能エネルギーのFIT(固定価格買い取り制度)で太陽系統接続の申し込みをしようとする事業者が各電力会社に殺到した。中でも太陽光発電に向く土地を多く抱える九州電力には、駆け込みの申し込みが集中した。九電では電力の需給バランスが崩れるとして、この問題を危惧。「抑制をかけたい」と経産省に打診していたという。だが再エネ普及を狙う国は待ったをかけ、一進一退の攻防が続いていたと太陽光発電業界では伝えられる。痺れを切らした九電は9月24日、既存・新規含め系統接続の回答をすべて、一時的に保留にすると発表した。これに北海道、東北、四国、沖縄電力も追随して新規接続契約保留を発表した。この「九電ショック」で、盛り上がっていた太陽光発電ブームは一気に冷え込んだ。

小渕優子経済産業相(当時)は2日後(26日)の閣議後の記者会見で、電力大手各社がFITに基づいて、どれだけの再生可能エネルギーを受け入れられるかを緊急調査する方針を表明した。FIT認定を受け、土地を購入するなど再エネ発電事業の準備を進めている事業者への影響が大きいと判断したからだ。小渕経産相は10月10日の閣議後会見で「電力会社が出している受け入れ量が本当であるのか、しっかりと検証したい」と強調、同日付で新規接続契約保留する5電力に対し、より丁寧な説明などを求める要請文も出し、太陽光発電を擁護するスタンスを示していた。

そこに起きたのが小渕経産相の政治団体による不透明な政治資金問題である。観劇会への費用一部負担や親族が経営するブティックでネクタイやハンカチなどの贈答品を購入したとの問題を10月16日発売の週刊誌が報じると、一気にレイムダック現象が進行した。九電を筆頭に電力各社は太陽光発電批判を先鋭化させ、安定的な送電を損なうマイナスの存在として大々的にネガティブ情報を流した。経産省も大臣の辞任で省内が大混乱し、再生可能エネルギーのことなどほったらかしになった。

九電工という上場企業がある。九電が24.2%の株式を保有し、意のままに動かせる電気工事会社だ。「九電管内でメガソーラーなどの接続申請を出すと、九電工案件はすんなりと通るが、他の事業者が手がける案件は色々と難癖を付けられて話が進展しない」と、ある太陽光発電事業者は明かす。完全なお手盛りなのだが、地元メディアは見て見ぬ振り。九州最大の経済団体である九州経済連合会の初代から7代までは九電会長が就いてきた。13年に麻生セメント(福岡市)の麻生泰社長が第8代九経連会長に就任したが、これが緊急避難措置というのは衆目の一致するところ。いずれ九電が復帰し、権勢を振るうのは目に見えている。敢えて九電に弓を引く猛者は地元メディアにもいない。

「新規接続契約の保留」という表現を、多くのメディアは電力会社が管理する送電網への「事実上の接続拒否」と粗く解釈して報じ、世間はそれを鵜呑みにした。接続拒否をするにはそれ相応の理由がないと難しく、手順も踏まねばならないが、九州電力しか取材したことのない地元紙や地元テレビ局、全国紙の支局駐在記者に詳細な仕組みなど分かるはずがない。第三者の冷静な視点を取り入れる余裕などまったくなかった。06年に欧州で風力発電が原因の大規模停電が起きたケースを、九電が報道資料に添付すると、それをそのまま垂れ流した。現在は技術的な改善が進み、同様の事例はまず起きないのに、「再生可能エネルギーの大量導入が進むとこんなに危ない」というメッセージを発信してしまったのだ。

制度上の欠陥を巧みに突く

昼間の需要の1.5倍も電気が流れ込めば送電網に支障が出るだろう。しかし溢れた電気を「地域間連系線」を通じて隣の電力会社に送ることは可能だ。関門海峡をまたいで中国電力に引き取ってもらえばよいのである。一般論で言えば、出力調整が容易な火力発電所が多いほど再生可能エネルギーを受け入れるゆとりが大きい。電源構成比で見ると東京電力の火力構成比は45%、関西電力は55%、九州電力は57%なのに対し、中国電力は70.3%もある。

この連系線の容量がいっぱいで、再エネを通す余裕が残っていない、というのが九電の理屈。しかしこれにはカラクリがある。日本の再エネは送電網に対する優先的な接続が認められていないため、九電管内で太陽光発電の電気が溢れても中国電力側に流すことはできない。連系線がJパワー(電源開発)の松浦火力発電所(長崎県)や松島火力発電所(同)からの電気を優先するため、再エネは行き場を失う。松浦や松島の出力を絞り込めば、再エネは中国電力経由で電力不足の関電管内の需要を満たすことができる。こんな運用のコツも九電は地元紙記者に開示しない。ドイツなどは再エネの優先接続を定めており、他の電源よりも優先的に接続する義務を負っているため、電力会社が恣意的な操作をすることはできない。優先接続の規定がないという制度上の欠点を巧みに突いた格好だ。

九電が再エネ、特に太陽光発電をヤリ玉に挙げた動機はやはり原子力発電だろう。東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所の沸騰水型軽水炉(BWR)とは方式が異なる加圧水型軽水炉(PWR)を採用する九電は、震災後にストップした原発の中で、再稼働が最も先行すると言われていた。ただ、九電の送電網は東電、関電、中部電力に比べると貧弱で容量が小さい。急増する再エネが送電線のキャパを埋めてしまうと、せっかく再稼働させた原発の電気を販売するルートを失う。何としても早めに芽を摘んでおく必要があった。

九州電力は今年8月11日、全国初のケースとして新規制基準に基づき川内原子力発電所1号機を再稼働させた。10月半ばには川内原発2号機も再稼働する。九電管内の太陽光発電は今年、ひときわ厳しい冬を迎えるかもしれない。

   

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