編集後記

2015年6月号 連載
by 宮

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絵に描いたような高浜原子力発電所。右手前から1号機、2号機。4月23日

パノラマルームから内浦湾を望む。左手前から3号機、4号機

撮影/本誌・宮嶋巌

福井の若狭路には関西電力の11基の原発が立ち並ぶ。その最西端の内浦半島のねもとに位置する高浜原発を訪ねる。湾を見下ろすパノラマルームから目の前に広がる景色に言葉を失った。眩しい若緑の山々に抱かれた4基の原発。その向こうに光る青い海。かくもpittoresque(ピトレスク)なサイトがあろうとは──。

平成4年に関電に入社した高畠勇人さん(47、京大原子核工学科修士)の初仕事は、高浜での運転実習と蒸気発生器の取替工事だった。その後、都合9年の高浜勤務を経て、昨年6月に新設された「原子力安全統括」に指名された。関電はソフト面の安全対策の目玉として、所長と二人三脚で事故対応に当たるポストを創設し、「原子力安全を俯瞰できるホープ」を抜擢する方針を決めていた。

「期待されていると思うと武者震いがしました」と語る高畠さんの脳裏には、目を皿にして読んだ「吉田調書」と東電のテレビ会議映像が焼きついている。

「吉田さんは重責を独りで抱え込み、長時間強いストレスと緊張に晒され、孤立無援でいらいらされていると感じました。その反省と教訓から、平時のコミュニケーションによって考え方と価値観を共有し、事故の際には助言し合うことで、より的確で迅速な判断ができるよう、発電所内に『参謀』が必要です。それも1人ではなく、2人、3人と多いほうがいい。それでこそ有事に強い組織です」

高浜では万が一に備え、発電所構内に70名が24時間常駐する。事故が発生した場合は、発電所周辺に住む約2‌30名が寮、社宅、自宅から駆けつけ、協力会社やプラントメーカーの発電所支援により700名以上が事故収束に力を注ぐ。高畠さんはと言えば、発電所から徒歩40分、最寄りの借り上げ寮の6畳1間(バス・トイレ共用)に単身赴任。「高浜が可愛いから苦にならない」と言う。

   

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