岡田 克也 氏
民主党衆議院議員前副総理・元外相
2014年8月号
POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌
1953年三重県生まれ。東大法卒。旧通産省入省。90年衆院初当選(当選8回)。93年自民党を離党し、98年民主党を結成。政調会長、幹事長、代表を歴任。09年衆院選に勝ち、政権交代を実現。鳩山、菅両内閣で外務大臣、野田内閣で副総理を務める。政界屈指の論客である。
写真/平尾秀明
――「解釈改憲」(集団的自衛権の限定容認)を支持する読売新聞の世論調査でも、内閣支持率が9ポイントも下がり、政権発足以来初めて5割を切りました。
岡田 読売によると「政府が国民に十分に説明していないと思う人」が81%。安倍総理が与党協議を命じてからわずかひと月半。歴代内閣が「憲法上許されない」と言ってきた「集団的自衛権の行使」を、閣議決定で解釈変更し、「できる」ようにしました。十分な国会審議を求めた我が党の主張は無視され、党首討論で海江田代表が「なぜ憲法改正の手続きを取らないのか、なぜ、急ぐのか?」と質しても、総理はまともに答えなかった。本来、国会で議論を尽くし、国民全体の理解を得なければならない大問題。それを結論ありきで押し切った。国民が拒絶するのは当然です。
――公明党は「憲法上、許される自衛の措置は自国防衛のみに限られ、個別的自衛権に匹敵するような事態にのみ発動される」として、憲法上の歯止めをかけたと主張しています。
岡田 「自衛権発動の新3要件」が、公明党の要求で、やや強めの表現になったが、集団的自衛権の行使が、時の内閣の判断に一任され、歯止めがなくなったことに変わりはない。公明党は当初、政府が提示した事例ごとに個別的自衛権や警察権で対応できないかを吟味すると言っていたが、集団的自衛権に関する8事例の検討はどうなったのか。「限定容認」というからには、それができるかできないかを、はっきりさせるべきでした。
――安倍政権のスタンスは、「新3要件」の下でも集団的自衛権の8事例は全て認められるというものです。
岡田 例えば、公明党は従来、海外での「武力の行使」に当たるペルシャ湾での機雷掃海は許されないと主張してきました。新3要件でも、それができるのなら、どんな歯止めになっているのか。閣議決定は、自公の同床異夢ではないか。秋の国会では自衛隊法などの改正が議論になりますが、自公のズレが露わになるでしょう。
――秋の臨時国会で公明党は「平和の党」の看板を降ろすのか――。岡田さんご自身のスタンスは?
岡田 集団的自衛権を広く認めるというのであれば憲法改正を行うべきです。では、全く認めないのかと言えば、憲法の「平和主義」と矛盾しない範囲で、本当に必要性があり、非常に限定されたケースにおいて、それはあり得ると考えています。しかしペルシャ湾に機雷が敷設され、タンカーなどが航行できなくなり、我が国へのエネルギー供給が止まってしまいかねない事態において、集団的自衛権を行使して、機雷の除去に参加すべきであると総理は言われたが、私は反対です。石油の安定供給が確保できないという理由で、集団的自衛権(武力行使に当たる機雷掃海)を認めるのは間違いです。日本が直接武力攻撃を受け、国民の生命や財産が奪われたりする事態に匹敵するような状況がなければ、集団的自衛権の行使を認めるべきではありません。新3要件はあまりにも曖昧です。
――安倍総理は、最近の中国軍機の異常接近や、南シナ海におけるベトナム艦船と中国船の衝突を取り上げ、「何もしなくていいのか!」と煽っています。
岡田 国民の前で、総理がやるべきことは、厳正に必要性を説くことです。総理が先頭に立って、国民感情を刺激して危機を煽り立て、安全保障政策を強引に進めていくやり方は、本来リーダーが取るべき態度ではないと思います。日本と「密接な関係」にあるのは同盟国のアメリカであり、集団的自衛権の行使が許されるのは、我が国の存立が脅かされる近隣有事に限られる。ベトナムと中国の衝突に、自衛隊が出ていくとか、そこまで政府が考えているとも思えません。
――アメリカは期待していませんか。
岡田 集団的自衛権を「やります」と言えば「ウェルカム」に決まっています。しっかりタガを嵌め「できるのはこれだけ」と説明しておかないと、アメリカの期待を裏切り、かえって日米関係を傷つけることになりかねない。
――安倍総理は何をしたいのか?
岡田 今の憲法は、GHQ(連合国軍総司令部)に押し付けられたものだから、自主憲法を作って普通の国になりたいということでしょう。特に憲法9条が必要以上に日本を縛っているので、そこに穴をあけたい。そもそも総理と石破幹事長の本音は「全面的」に集団的自衛権を認めたい。それが持論です。この種のアリの一穴は際限なく広がる。今の安倍政権はやりたい放題です。集団的自衛権に典型的に見られるような、国民の声や国会での議論を十分に聞かず、やりたいことをとにかくやる。それがリーダーシップと誤解しています。内閣、或いは与党だけの決定で重大な憲法解釈の変更が次々に行われるなら、何のために憲法があるのか。まごうことなき日本の危機です。
――民主党の存在感が問われます。
岡田 残念ながら野党は今、9つも乱立し、安倍政権への対立軸を示せない。中には「安保法制懇」提言を丸呑みせよと主張するところもあり、意見をまとめるのは難しい。それでも野党同士の連携は非常に大切です。同じ党になるかはともかく、いろいろな政策について方向合わせをして、法案への対応なども極力一致させていく必要があります。とりわけ野党第一党である民主党の立ち位置は重要で、国民に向かって選択肢を示す責任があります。総選挙から1年半が経ち、来年の7月以降、つまり来年の通常国会が終わった後は、いつ解散があってもおかしくない。再来年1月の通常国会が始まるまでに、総選挙がある可能性が極めて高い。今から選挙区調整に相当馬力をかけていかないと、総選挙で政権を争える態勢になりません。候補者調整はたいへんですが、野党分裂で与党に漁夫の利を与えるわけにはいかない。