「おねだり経団連」佐々木副会長の品性

「安倍ブレーン」を自負する佐々木則夫東芝副会長の言動が、首相官邸や財務省の顰蹙を買っている。

2014年7月号 BUSINESS

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安倍晋三首相の成長戦略の目玉とされる法人税改革を巡る議論が白熱する中、経済ブレーンを自負する佐々木則夫東芝副会長(65、経団連副会長、経済財政諮問会議民間議員)の発言が顰蹙を買っている。

法人税率引き下げなどについて、「法人税収が上振れした増収分は減税せよ」と述べたり、特定業界向けに法人税を減税している租税特別措置(租特)の見直しに関し、「案を出せと言われれば出ないこともないが、産業界の利害が出てきて1年くらいはかかる」と開き直ったり。企業優遇論を露骨に展開するだけで、「おねだり経団連」の象徴的存在になっているからだ。

東芝の社内抗争では社長から副会長ポストに棚上げされ、一時有力視された経団連会長ポストも逸した。経団連会長に就任した榊原定征東レ会長(71)が、政府との政策論争を本格化するには、佐々木氏との距離感の見直しも課題になろう。

迷惑千万「いわくつき財界人」

首相が意欲的な法人税率引き下げについて、政府・与党は2015年度から実施する方向で調整中だ。6月末にまとめる「骨太の方針」に明記したい考えだが、現在約35%の法人税の実効税率引き下げに必要な代替財源の結論は出せそうもない。

具体的な引き下げ幅や、何年間で引き下げるかという工程表については、年末の税制改正論議まで決着が先送りされる。

重要なポイントは、法人税減税に慎重姿勢を続けていた自民党税制調査会(野田毅会長)が、条件付きで容認する姿勢に転じたことである。党税調は「恒久財源や制度的に担保された安定財源を確保する」「法人税を課税する企業の数を増やす課税ベースの拡大」などの考え方をまとめ、落としどころを模索する。

しかし、これまでの議論で目立ったのが、政府にあれこれと注文を付ける佐々木氏のアジテーター的言動だった。

佐々木氏は、安倍政権が復活させた経済財政諮問会議の民間議員のほか、政府税制調査会特別委員、内閣府の対日直接投資に関する有識者懇談会の委員などを掛け持ちする売れっ子だ。

だが、大物財界人として起用されたと言うより、他に適任者がいなかったという消去法で選ばれたのが実態である。

6月初めに榊原氏にバトンタッチした米倉弘昌・前経団連会長(77)は、アベノミクス一本目の矢である大胆な金融緩和策に「無鉄砲」と批判したことが首相の逆鱗に触れ、関係がこじれた。

民主党に政権交代前の自民党政権時代、経済財政諮問会議の民間議員は経団連会長の指定ポストだったから、本来ならば米倉氏が就くはずだが、佐々木氏が代役として選ばれた。

佐々木氏は一時、「ポスト米倉」の有力候補として取り沙汰されただけに、安倍政権は、次期経団連会長を先物買いする思惑もあったとされる。

しかし、政界同様、経済界も一寸先は闇である。佐々木氏は、犬猿の仲の西田厚聰東芝会長(70)との抗争の結果、社長を外されて副会長に祭り上げられ、今年6月末、勇退する西田氏の後任に社長経験がない室町正志氏(64)が就く代わりに、佐々木氏は副会長にとどまる。

西田氏が佐々木氏について、「社内で会議ばかりやっている」「英語がろくに話せない」と酷評していたのは有名だが、経団連会長に就任せず、社内抗争でイメージダウンのいわくつき財界人を政府が摑まされたと揶揄されるのも仕方ない。

東芝や経団連での不遇の鬱憤を晴らすかのように、佐々木氏は一連の会議に全力投球しており、皆勤賞ものだ。しかし、経団連企業への利益誘導を主眼とする精勤とすれば、迷惑千万の財界エゴと言える。

資質問われる「裸の王様」

特に政府税制調査会の法人課税専門委員会で毎回、佐々木氏が引っ掻き回し、取りまとめの重責を担う大田弘子座長(60、元経済財政担当相)らにぶちまける大人気ない主張は眼に余る。

例えば、4月14日の法人課税専門委員会。佐々木氏が法人税の実効税率を35%から25%程度に下げると主張したことに対し、大田座長が「税率引き下げと、財源確保を成立させる方程式を出していただけないか」とただすと、「座長も整合性ある資料をいただきたい」と、むきになって反論した。

租税特別措置の見直しに産業界が消極的ではないかと、他の委員から指摘されると、すかさず「産業団体が圧力団体のような発言は訂正していただきたい」と口を尖らせたが、産業界が抵抗し続けたからこそ、効果も不確かな租特が温存されて既得権益化していることは明らかで、ドッチラケムードが漂った。

赤字法人にも課税される外形標準課税の拡充案が議論された別の日の専門委では、「外形標準課税は所得課税に等しい。アベノミクスで賃金を上げようとしているのと逆行する」などと相変わらずの佐々木節で、赤字法人への課税や外形標準課税拡充に反対の立場を披歴した。

政府税調は、学者など有識者メンバーが専門的な見地から「あるべき論」を協議する場にもかかわらず、まるで経団連の陳情独演会のような状況に眉をひそめる人は少なくない。

麻生太郎副総理・財務相は「経済財政諮問会議の民間議員の意見に引っ張られるのはいかがなものか」と批判的で、減税しても内部留保を積み上げる企業行動を問題視する。「減税の代替財源は財界が探してくるのではないか」と突き放したのも、佐々木氏らへの不信感の表れだ。

財務省は佐々木氏を「少数意見」と切り捨てている。政府・与党の本格調整で、佐々木氏の主張と真逆に、外形標準課税強化や租税特別措置の抜本見直しの方向で議論が進んでいることは、現実的な着地点を探るうえで当然だろう。

安倍首相は消費税率を2015年10月に10%に引き上げるかどうかの政治判断を今年末に控える。家計に負担増を求める一方で、復興特別法人税の前倒し廃止に続き、法人税率大幅引き下げでさらに企業を優遇すれば、政権批判が高まるはずだ。

税収の上振れに頼らず、法人減税の恒久財源をどう確保するかは難題である。佐々木氏が空論で吠え続けるほど、自分たちだけ栄えれば良いという経済界への批判は避けられまい。榊原経団連でもいずれ浮き上がる「裸の王様」が現実味を帯びる。佐々木氏の資質が厳しく問われる正念場が続きそうだ。

   

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