「原発再稼働」争う滋賀知事選

「卒原発の嘉田」が担ぐ前民主党代議士と、自公が推す原発推進の元経産官僚が大接戦。

2014年7月号 POLITICS

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嘉田が後継指名した三日月を担ぐ「チームしが」のポスター

7月13日投開票の滋賀県知事選が激戦の様相だ。三選出馬を断念した嘉田由紀子知事が、前民主党衆院議員を後継に指名して、自民が推す元経産官僚と「卒原発連合」vs「原子力ムラ代表」の対決に持ち込み、形勢は混沌としている。

「3期目も頑張っての声が多かった。ぎりぎりまで迷った」

5月7日、出馬断念の会見で嘉田知事は涙を浮かべた。環境派知事として絶大な人気を誇った嘉田だが、ついに三選出馬はならなかった。2006年、「もったいない」を合言葉に新幹線新駅の凍結をかかげ自公民推薦の現職を破って初当選。10年には自民候補にダブルスコアの大差で再選を遂げた嘉田だが、12年の衆院選を前に小沢一郎・現生活の党代表と組んで「日本未来の党」を立ち上げて国政進出を図り大敗したことが命取りになった。小沢との合流への反発から支持者が次々に離反。資金難にも悩み、今年初めには自民の一部県議らと連携しての出馬も取り沙汰されるほど孤立感を強めていた。

仲介に動いた「武村正義」

嘉田が出馬に踏み切れず、去就が定かでない中、先に動いたのは自民だ。自民は「原発」「安保」で政権を揺るがしかねない滋賀、福島、沖縄の3知事選を重視。わけても「原発銀座」福井に隣接する滋賀の嘉田を引きずり降ろせるかは「原発再稼働」に大きな影響を及ぼす。百も承知の自民県議らは候補の人選を急ぎ、地元出身の財務官僚、経産官僚に次々にアプローチ。2月末になってようやく経産省出身で内閣官房参事官の隆史(47)の擁立をまとめあげ、戦いの火ぶたを切った。

一方、「未来の党騒ぎ」で嘉田との間に亀裂が走った民主では、衆院選で落選し浪人中の川端達夫元総務相の名が浮上するが調整は成らず、不戦敗の声も聞かれた中、県連代表の三日月大造衆院議員(43)が突然、出馬に意欲を見せた。三日月は滋賀3区で3期連続当選。国交副大臣も務めた。12年の衆院選は敗れたものの比例復活当選している。民主が4選挙区で全敗した中で、比例復活とはいえ唯一人生き残った現職の「離党、無所属で出馬」の決意に驚きが広がった。

「繰り上げで議席は減らないが、民主に見切りをつけたとしか思えない。このままでは何もできないという気持ちは分かるが、問題は勝てる見込みがあるかだ。嘉田との一本化に賭けたんだろうね」(全国紙記者)

三日月が出馬準備に突き進む中、環境系の市民グループが嘉田の出馬を求める動きも目立ち始める。見かねて仲介に乗り出したのが武村正義元官房長官だ。武村は嘉田が駆け出しの研究者の頃の70年代から80年代、環境派知事の先駆けとして「琵琶湖条例」や「世界湖沼会議」で華々しい成果を挙げ、今も滋賀政界に隠然たる影響力をもつ。その武村が嘉田と接触。支援団体の離反、資金難、家族の反対、と八方塞がりで悩む嘉田の弱気を知った武村は、「嘉田県政8年の総括」をテーマに嘉田、三日月が列席する県民集会を連続開催。嘉田退陣、三日月一本化の流れを作った。しかし、4月4日、衆院での「原子力協定承認案」に民主が賛成。三日月も賛成票を投じたため、嘉田陣営が硬化して調整は難航。一時は決裂まで行きかけたが、嘉田票を抜きにして三日月当選はない。結局、三日月が歩み寄り、嘉田の「原発再稼働は滋賀の同意も必要」の主張を受け入れ「卒原発」で足並みを揃えた。

小泉と細川はどう出るか

一本化が成立してみれば前回知事選で42万票の史上最高得票を記録した嘉田の存在は大きい。嘉田が三日月を後継指名し、政策集団「チームしが」を設立、共同代表に就任したことで、三日月に疑念を抱いた嘉田支持者らも続々と三日月支持に回る。

さらに追い風も吹いた。5月21日に福井地裁が出した大飯原発3、4号機の再稼働差し止め判決だ。隣接する滋賀県民にも時ならぬ期待が広がったが、菅義偉官房長官は「(原発再稼働の方針は)全く変わらない」と黙殺。さらに関西電力の八木誠社長が「控訴審判決前でも、原子力規制委の適合審査合格などの条件が整えば再稼働する」と逆なで。嫌でも「原発再稼働」が争点にならざるを得ない。「三日月も今では嘉田以上に強く卒原発を訴えている」と自民関係者は心配顔だ。

もっとも、三日月にとって「卒原発」は両刃の剣だ。連合は三日月推薦を正式決定し、三日月の議員辞職で繰り上げ当選を果たした川端の出身労組UAゼンセンも恩義を感じ気合が入る。しかし電力総連などは「卒原発」に猛反発。関西電力が会社、労組ともども「三日月つぶしに全力を挙げる」のは公然の秘密だ。

一方、自民も不安を抱える。もともと滋賀県議団は湖東と湖西の勢力争いが絶えず、国会議員団も若手ばかりで押さえがきかない。小鑓擁立に一部県議が動いて県議団の了承なしに決めたと不協和音がくすぶる。「とても一枚岩で戦える状態にはない」(県職員)。果ては三日月・嘉田連合の勝利に備え双方に顔を出す「二股」議員さえいるという。おまけに小鑓自身が議員や首長らを辛辣に批評した会話の記録が流出し、関係者を激怒させた。陣営に楽勝ムードはなく、逆に「もたついていた三日月に押されている」と危機感が広がる。

告示は6月26日。小鑓には自民、公明と維新県総支部が推薦。三日月には民主、社民、地域政党「対話の会」が支援。共産推薦の坪田五久男・党県常任委員(55)と合わせ3人の無所属新人の争いとなる。

自民は4月末の鹿児島2区補選で民主候補に2万票差をつけて勝利したものの、鹿児島市内では民主に負けている。京阪神のベッドタウンとして今も人口が増え続ける滋賀も都市部の無党派層が多い上、近畿の水ガメ・琵琶湖を抱えて環境への関心が高い。嘉田が小泉純一郎、細川護煕両元首相と連携の動きを見せるのも無視できない。選挙結果が海江田降ろしに直結しかねない民主執行部も必死の形相だ。対する自民は石破茂幹事長はもちろん最終的には安倍晋三首相も滋賀入りする予定だが、「僅差の激戦」との予想が多く、予断を許さない。(敬称略)

   

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