「中国覇権」に想定外なし さらば「一国平和主義」!

佐藤 正久 氏
自民党参議院議員

2014年7月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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佐藤 正久

佐藤 正久(さとう まさひさ)

自民党参議院議員

1960年生まれ。防衛大卒、米陸軍指揮幕僚大学卒。96年国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長。2004年自衛隊イラク先遣隊長、復興業務支援初代隊長=「ヒゲの隊長」として有名に。07年参院選初当選(現在2期目)。自民党国防部会長、防衛大臣政務官などを歴任。

写真/平尾秀明

――安全保障法制整備に関する与党協議会のメンバーを務めていますね。

佐藤 今日(6月10日)までに、離島防衛など有事には至らない「グレーゾーン事態」への対処や、国連平和維持活動(PKO)における自衛隊の「駆けつけ警護」や「任務遂行のための武器使用」について、公明党側の大筋合意を得ました。

憲法9条に基づく我が国の「一国平和主義」が批判を浴びるようになったのは1991年の湾岸戦争からです。多国籍軍のクウェート侵攻に、日本は130億ドルの巨費を提供したが、国際社会から尊敬されなかった。その反省から、政府は人的貢献に踏み出し、自衛隊が世界各地のPKOに派遣されるようになりました。イラク復興支援の先遣隊長を務めた私は、武器使用が余りにも「自己保存」に厳格なため、民間NGOの邦人が誘拐され、派遣自衛隊員が拉致されても、その救出に武器を使えないことや、隊員が撃たれたら撃ち返せるが、その犯人を追いかけて捕えるために武器を使えないことに、耐え難いストレスを感じました。現場の自衛官は政治的な発言を封印されているので、その苦労や悩みは国政の場に届きにくい。自衛隊の行動に法的根拠を与え、現役隊員の迷いをなくし、何かあった際には不当な裁判から隊員を守る。それが現場上がりの国会議員である私の責務です。

中国国防費は過去10年で約4倍

――集団的自衛権はどうなりますか。

佐藤 読売新聞の世論調査では「邦人輸送の米艦防護」と「機雷掃海」について、4人のうち3人が集団的自衛権行使を認めています。これを鵜呑みにはしませんが、個別の事例に沿って丁寧に説明していけば、より多くの理解が得られると確信しています。日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増し、特にアジア太平洋地域の緊張が高まっています。領土、主権、国民、そして国益を守り抜くために、日米安保に過度に頼ることなく自主防衛努力を重ねるのは当然です。海外においては「一国平和主義」と訣別し、総理が唱える「積極的平和主義」を推進する。新たな理念の実践には集団的自衛権に関する憲法解釈の変更が欠かせません。

――5月31日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、安倍総理は中国の力ずくの海洋進出を批判しました。

佐藤 中国の南シナ海での覇権的膨張活動がエスカレートしています。中国は西沙諸島に石油採掘施設を持ち込み、それを80隻もの艦艇で守り、ベトナムの漁船を沈没させました。フィリピンと係争中の中沙諸島のスカボロー礁では、中国が岩礁の上に構造物を建設し、既成事実を積み重ねています。南シナ海で起きたことは、東シナ海でも必ず起きる。安倍総理がアジア安保会議で「全ての国が国際法を順守しなければならない」と演説し、日米同盟を基軸にオーストラリアやインド、アセアン諸国と連携する考えを表明したのは、実にタイムリーでした。

――5月24日には東シナ海の公海上で、航空自衛隊の偵察機に中国軍戦闘機が30mまで異常接近しました。

佐藤 ニアミスを恐れぬ中国軍機には、米軍がマークするパイロットが乗っており、常軌を逸した「心理戦」(威嚇)でした。日本の猛抗議に対して、中国側は「自衛隊機が中露軍事演習を妨害した」「過去に自衛隊機が中国軍機に10mまで異常接近したことがある」などと、嘘八百の「宣伝戦」を繰り広げています。

中国の覇権主義の背景には強大化する軍事力があります。中国の公表国防費は過去10年で約4倍、過去26年で約40倍に増え、近代的戦闘機や新型弾道ミサイルを含む最新兵器の導入と量的な拡大が著しい。中国の国防費は不透明な部分が多く、14年の公式発表予算額は12兆円以上とされ、我が国の3倍に近い。米軍は中国側の公式発表を信用せず、実態は公表予算の1.2~2倍と見ています。

中国の領土侵奪は漁船、公船、艦艇の順に投入し、実効支配に至るケースが多く、万一、日中間で領土紛争が勃発したら、我が国は非常に厳しい戦いを強いられます。「グレーゾーン事態」への備えは急務であり、中国の覇権的膨張活動に「想定外」があってはならない。

臨時国会で個別法改正が難関

――日米同盟を基軸に抑止力を高めなければ、我が国の領土を守れない?

佐藤 安倍政権は民主党政権が投げ出した安全保障に関する課題を一つずつ解決し、アジアや世界の平和と安定に向け、日本が従来より積極的に貢献する外交姿勢を打ち出しました。日米同盟を強化し、米国以外の友好国との連携を深めるためには、ともに守り合う集団的自衛権の行使を可能にしなければならない。今年12月には、自衛隊と米軍の役割・任務・能力(RMC)について、日米安全保障協議委員会を開き、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を見直します。これにより抑止力が一層高まります。

――安倍総理は従来の憲法解釈を変更する閣議決定を焦っていませんか。

佐藤 閣議決定は大きな方向性を示すものであって、議論を尽くせば与党協議はまとまります。閣議決定の先送りとか、悠長なことを言っている場合ではない。むしろ難関は秋の臨時国会です。様々な個別法を改正しなければなりません。個別法は自衛隊の一挙手一投足を縛りますから、曖昧な表現や不明確な基準は許されないのです。秋の臨時国会は安全保障に関する法整備を巡る、与野党激論の場になるでしょう。

――閣議決定による憲法解釈の見直しは、改憲の一里塚ですか。

佐藤 現憲法の第1章は【天皇】で第1条~8条、第2章は【戦争放棄】で第9条のみです。独立国家として【国防】などの自衛権に関する記述はなく、それを行使する一手段としての自衛隊に関する記述もない。私は「国内では軍でなく自衛隊、海外では自衛隊ではなく軍として扱ってくれ」という日本政府の詭弁はやめるべきであり、自衛隊は「国防軍」に改称するのが適切と考えています。

   

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