2014年5月号 BUSINESS
ヤフーにとって、親会社であるソフトバンク(以下、SB)の孫正義会長の命令は絶対だ。3月27日に突如発表されたヤフーによるイー・アクセス(以下、イー社)買収は、この関係性を何より象徴する出来事だった。
SB傘下で、6月にはウィルコムと合併する予定だったイー社株式の99.68%をヤフーが3240億円を投じて買い取ることになったが、会見にはSBからの登壇者はおらず、ヤフーの宮坂学社長一人。料金プランや投入機種などの具体的な話も一切出なかった。宮坂社長は「スマートフォンの普及拡大がヤフーの成長につながる」と述べ、自分たちから売ってほしいと打診したことを明かしたが、それを真に受ける人は少ないだろう。
一部メディアは、米スプリント買収で有利子負債が9.2兆円にまで膨らみ、さらにTモバイル買収を目論むSBを手助けする「親孝行な息子」と報じたが、どちらかと言えば「親にたかられた息子」だ。ただ、SBがキャッシュを欲していることは間違いないが、目の前の4500億円(買収金額3240億円とヤフーが肩代わりするイー社の融資返済分約1300億円)だけが狙いとは考えにくい。
Tモバイル買収にかかる2兆円の資金については、既に国内外の金融機関から調達するめどがついているうえ、米ニューヨーク証券取引所への上場準備を進めている中国最大手のEコマース企業、アリババ集団へのSBの出資比率は36.7%。アリババの時価総額は11兆円規模と見られており、SBが保有するアリババ株の価値は4兆円近くに上る見込みだからだ。
では、SBはなぜイー社をヤフーに売却したのか。ヤフーの2012年度の通期決算は売上高が3429億円、営業利益は1863億円と6年ぶりに2桁成長を達成した。しかも、サービス開始以来、16期連続の増収増益である。SBが目をつけたのは株式の一時売却益などではなく、この安定した収益基盤にあると言えそうだ。
SBは通信エリアについて、これまでと同様、合併する2社と相互に融通し合う。つまり、同社の基地局投資を、今後はヤフーにも負担させる算段だ。金融関係者は「基地局にかかる投資費用はヤフーにとって過去経験したことないほどの重荷になるだろう」と見る。グループ全体の基地局投資額は12年度において7852億円。13年度は計画通りであれば約7800億円を投じた。14年度には5800億円、15年度には4800億円を予定しており、今後2年間で1兆円を超える投資額になる。
さらに、NTTドコモが6月1日から月額2700円(フィーチャーフォンは月額2200円)で、完全定額での音声通話が可能な「カケホーダイ」を提供すると発表。ソフトバンクも4月21日から通話とパケット通信が定額になる「スマ放題」を提供予定だが、現状では通話時間や回数に制限があることから、早晩サービスの見直しを迫られるだろう。
米国まで手を広げたSBが競争を生き残るには、できる限り負担を減らしておく必要があり、その白羽の矢を立てられたのがヤフーだったわけだ。だが、ヤフーもまたスマホ市場においては、PC時代ほどの訴求力を保持できていない。重い足枷をはめたまま、スローガンの「爆速」を果たして維持できるか。