2014年1月号 DEEP
五つの大学で論文の臨床データが不正操作されていた、いわゆる「ディオバン問題」。京都府立医科大の吉川敏一学長や滋賀医大の馬場忠雄学長らが謝罪に追われたのは記憶に新しい。しかし、火中にあって今日に至るまで、トップが責任逃れを決め込んでいる大学がある。
東京慈恵会医科大学(東京・港区)が世界的学術誌「ランセット」に発表した「Jikei Heart Study」(責任者は循環器内科の望月正武教授=当時)は、「黒い論文の見本」と指弾される。ところが、記者会見に現れたのは橋本和弘医学部医学科長。大学トップが謝罪した他大学と比べ異様な扱いと言う外ない。そこには学内事情が絡んでいる。
「2013年4月に学長になった松藤千弥氏は栗原敏理事長の傀儡。学長に謝罪させないのは、後ろ盾の理事長に火の粉が及ぶ恐れがあるから。理事長が望月教授をバックアップしていたことは周知の事実ですから」と慈恵会医科大職員は声を潜める。
01年に第10代学長に就任後、理事長を兼任しつつ12年にわたって慈恵会医科大に君臨してきた栗原氏は「Jikei Heart Study」に力を入れてきた。その証拠が「日経メディカル」などに残っている。当時、ディオバンの臨床研究をしていた研究者は、ノバルティスファーマがスポンサーとなる様々の医療雑誌に登場し、その効果を宣伝していた。日経メディカル06年12月号には「Jikei Heart Study主宰者に聞く」というインタビューが掲載され、望月教授と並んで栗原学長(当時)が登場している。望月氏は論文を撤回。署名入りの謝罪文も公表したが、その後ろ盾だった理事長は無傷。まるで他人事のように責任を回避している。「12年春に論文問題が浮上した後も、栗原理事長は真相解明に熱心でなかった。学長選挙を控えていたからです。12年夏には『神の手』と呼ばれてテレビに出演していた血管外科の有名教授が、手術の合間にゴルフのスイング練習をして、手術室の器具を壊す不祥事があったが『栗原派』なので不問になりました」(医療情報紙記者)
こんな有り様だから、理事長への批判が高まり、退陣を求める怪文書が学内に飛び交うようになった。なかでも興味深いのは、医療機器から学内のコンビニ運営まで手広く扱う大学の100%子会社「慈恵実業」にまつわる醜聞。特に12年9月に慈恵実業の医療機器部門が独立した「慈恵メディカルサービス」が理事長の「錬金術に一役買っている」と指弾されているのだ。
慈恵実業と慈恵メディカルサービスは、同じ三菱銀行OBが社長を務めており、仕入れ先と外注先には三菱系企業がズラリと並ぶ。「大学の子会社でありながら我々職員には内情がわからない」と、学内の不満がくすぶる。「慈恵実業から医療機器部門を切り出して、なぜ、孫会社を作らなければならなかったのか。子会社以上に孫会社の経理は、外から見えにくい。出入り業者からリベートを集めるための組織ではないか」と、アンチ栗原派の大学職員は勘繰る。
ご多分に漏れず、学長選は軍資金がものを言う。栗原氏が学長時代の04年に、私学補助金9千万円を取引業者の口座にプールしていた不祥事が発覚した「前科」もある。例の徳洲会の裏ガネも業者リベートの蓄積が大半だという。名門医科大にも膿が溜まっているのか。