南相馬に子どもたちの未来を育む拠点  「ソーラー・アグリパーク」で体験学習

太陽光発電施設の体験を通じ、子どもたちの考え行動する力を育てる「グリーンアカデミー」。再生可能エネルギー活用をめざす被災地で、市民啓発にも期待がかかる。

2014年1月号 INFORMATION [福島「心の復興」 ②]
取材・構成/編集部 上野真理子

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太陽光パネルの向きを変えて発電量を研究

半谷さんと3人の地元スタッフのチームワークは抜群

11月の薄曇りの朝。冷えた空気の中、バスが到着し、子どもたちが次々に飛び出してきた。南相馬市立石神第二小学校の3年生、38人。この日、同じ市内の「南相馬ソーラー・アグリパーク」に体験学習にやってきた。興味津々で周囲を見回し、歓声を上げ、元気いっぱいだ。

迎えたのはパークを運営する一般社団法人「福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会」の代表理事、半谷栄寿(はんがいえいじゆ)さんと、ここで働き始めて半年あまりの3人の若い地元スタッフ。子どもたちのパワーを全力で受け止めながら、半日間の体験学習プログラム「グリーンアカデミー」が始まった。

最初の時間はペットボトルの水を使った実験。活発に反応し、問いかけに答える子どもたち。半谷さんが訊ねる。「自然エネルギーって知ってる?」「知ってる! 地震や津波も自然エネルギー」「そう。私たちは地震と津波を経験したね。しかし、使いようによってすばらしいものにもなるんだよ。今日は、太陽光発電でそれを体感してほしい」。そう語るまなざしから、まるで勝負に臨むような真剣さが伝わってきた。

「子どもたちのために」地元の願い

福島第一原発30キロ圏、放射線量は高くないが事故の影響を背負う南相馬市原町区に、ソーラー・アグリパークはある。周囲はもともと畑だが、津波被害に遭い耕作していない土地が広がる。パークの敷地面積は2.4ha。遠くからも目を引くのは、二つの白いドームだ。中はサラダ菜やホワイトセロリなどを育てる水耕栽培の野菜工場になっている。

白いドームは野菜工場。電気自動車は体験学習にも活用している

訪れた人を迎えるセンターハウスをはさみ、反対側には全部で2016枚の太陽光パネルがずらり。発電能力は500kW規模だ。野菜工場の空調などは、この電気の一部を使っている。脇にはパネルの向きや角度を変えて発電研究ができる体験ゾーンも備える。

これらの施設を使い、自然エネルギーを体感しながら学ぶのがグリーンアカデミーだ。開講は2013年5月。三菱商事復興支援財団が運営資金3千万円を支援、プログラム作成には子どもの職業体験でノウハウのあるキッザニアが協力し、すでに地元と市外から600人以上の小・中学生が授業の一環として体験学習に訪れている。

こうした学習とパークの構想を描いたのは半谷さんその人だった。震災直後から南相馬に物資を届け、子どもたちのために支援を願う地元の人の声を聞き、継続できる支援の仕組みをと考えた。自身も南相馬市の出身だが、元東京電力執行役員として贖罪の思いを抱える。低線量被害で分断された子どもたち。いま市に戻ってきたのは6千人のうち3300人。子どもたちが元気にならないと、地元の復興もない。それなら、誰もが賛同する自然エネルギーを通じ、生きる力、自分で考え行動する力を育てる体験の場を作りたい。

その思いが企業や行政を動かした。用地を確保、補助金や支援を取り付け、13年3月にパークはオープンした。体験学習以外に、夏のサマースクールには大人も含めのべ800人近い参加者が来場。ウインタースクールも開講する。長く続けていくためには、寄付だけに頼らずビジネスの要素を取り入れていきたい、と半谷さんは語る。14年には水力、風力発電の体験装置が増える予定。三菱商事に若手社員を派遣してもらい、来年度以降の運営戦略や企画を立案中だ。

巡視点検に野菜の食育も

グリーンアカデミーのカリキュラムは、体験学習する子どもの学年や天候にあわせて変えている。石神第二小学校の3年生たちがこの日体験したのは、先の実験のほか太陽光発電のパネルの巡視点検や体験ゾーンでの発電量の研究、野菜工場の見学にゲームなど盛りだくさん。プログラムの最後には野菜工場でできた野菜とハムやチーズをパンにはさみ、サンドウィッチにしてみんなで試食。「また来たい」「実験をもっとしたい」などさまざまな感想を残し、子どもたちは笑顔で帰りのバスに乗り込んでいった。

南相馬市では震災の年に復興計画を作成、「再生可能エネルギーを活用する町に」と目標を定めている。沿岸部を中心に太陽光や風力の発電所を設置し、2030年には市内の電力需要をまかなうことを目指す。それには市民の理解が大切。市の新エネルギー推進課長、庄子まゆみさんは「行政の力だけでは復興は進まない。パークが市民啓発の拠点になるでしょう」と話す。

津波で危険区域になった場所や避難指示解除準備区域を抱え、復興が未だ目に見えない中、「パークは復興を感じることができた最初の施設」と市の関係者。

福島で生まれ育ち、福島大の学生時代に震災ボランティアに取り組み、新卒で採用された安達隆裕さんは「成長支援とは、ずっと関わり続けることかな」と今、思っている。大人として、南相馬の子どもたちに見せたい風景が、関わる一人一人の胸の中にある。パークの存在はその風景に至る小さな、しかし大切な一歩に見える。

   

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