編集後記

2014年1月号 連載
by 宮

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11月22日、敦賀半島西岸に立つ美浜原発を訪ねる。若狭湾には13基の原発が立ち並び、5つが敦賀半島にある。ドーム型の三つの建屋をまぢかに望む「水晶浜」海水浴場には、県警の大型輸送車や陸自の化学防護車、軽装甲機動車が集結し、発電所への唯一の陸路となる専用橋のたもとには迷彩服の自衛官や自動小銃を抱えた武装警官が陣取っていた。陸自ヘリから警察の鎮圧部隊が海浜に降り立ち、自衛隊員を輸送する県警の警備艇「わかさ」も出動した。Force on Force(武力対抗)訓練に遭遇したのだ。

警察が原発警備を本格化させたのは01年の米同時多発テロ以降。全ての原発施設に自動小銃を持った警官を配置した。若狭湾の夜は暗く、入り組んだ海岸線は、武装工作員の格好の潜伏場所となり得る。美浜原発を狙った北の核テロ小説『宣戦布告』はベストセラーになった。

3・11のあと、日本海側にある原発リスクが高まり武装警官が大増強され、中央制御室や重要施設の2交代24時間警護が可能になった。テロリストにはまず県警銃器対策部隊が応戦し、制圧できない場合は特殊急襲部隊(SAT)が出動。さらには自衛隊が治安出動の三段構えだ。

米英など世界の原発では、事業者が自前の武装警備員を雇い、自己防御の厳戒態勢を敷くが、我が国は民間人の武装が許されないため、当局の武力に頼るほかない。

先の合同訓練について、発電所側は「何も知らされていない」と言う。防衛秘密を含むにしても、事業者が蚊帳の外の対テロ訓練では本気度が疑われる。

さらに我が国の原発は、テロリストが発電所の作業員を装ってサイトに入り込み、襲撃の手引きをする「内部脅威」を抱えている。原発で働く人の身元調査を導入していないのは日本だけ。ものものしい訓練の前に、やるべきことがある。

   

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