編集後記

2013年12月号 連載
by 宮

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11月6日午前11時20分。福島第一原発4号機の最上階(5階)、オペレーティングフロアに立つ。縦12m×横10m、深さ11mの使用済み燃料プールを覗きこむと、暗く青みがかった水底に、燃料棒が詰まった1533体のチャンネルボックス(燃料集合体)が所せましと並んでいた。

発災当時の4号機は定検中。全ての燃料はプールの中にあったが、水素爆発で冷却設備が故障。水が干上がり、むき出しになった燃料から途方もない放射能が飛散すると、世界中が震え上がった。循環冷却システムが再開したのは発災から142日目の7月31日。その間、プールがグラグラと煮立つたびに、コンクリートポンプ車で100t以上の淡水・ヒドラジン放水が繰り返された。

燃料取り出しは「キャスク」と呼ばれる輸送容器(全長5・5m、重さ90t)をプールに沈めることから始まる。移動式の操作台(燃料取扱機)の上から、オペレーターが目視で燃料集合体を1本ずつ吊り上げ、キャスクに収めていく。水中のキャスクが満杯(22体)になったら、クレーンで吊って地上に降ろし、特殊トレーラーで隣接する共用プールに運び込む。約70回のピストン輸送で、来年末までに全ての燃料を取り出す計画だ。操作台の2本の黒いレバー(操縦桿)を握る作業員は6班編成の36人。空間線量が高い(50μSv超)ため、全面マスク着用が避けられない。

青く静まり返った水面に時折、魚が吐くような気泡がプクプクと浮かび上がる。原子力規制委員会の田中俊一委員長は「燃料棒の小さな傷から希ガス類が出るリスクがある」と警戒する。輸送先の共用プールは20年以上の長期保管に耐えるが、冷たい水底でも「核の火」が消えることはない。

「落ちるな! 落とすな! 挟まれるな!」――。建屋の壁にかかった安全スローガンだけが人間臭かった。

   

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