現地取材・Jパワー「大間原発」は今―工事再開1年

「新規制基準」に合わせた大幅な設計変更が不可避。当初来年11月の運転開始がどこまで延びるか、見通しが立たない。

2013年12月号 LIFE
by 大間・函館取材/本誌 宮嶋巌

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陸側から見た原子炉建屋(2013.10.18 本誌・宮嶋撮影)

鉄骨支柱をすだれのようなシートで覆った全天候型建設工法(2013.10.18 本誌・宮嶋撮影)

海側から見た原子炉建屋(2013.10.18 本誌・宮嶋撮影)

最大1千トンを吊り上げる日本最大の旋回式クレーン(2013.10.18 本誌・宮嶋撮影)

津軽海峡に鉞(まさかり)を突き出した格好の青森県下北半島。その最北端から南へ4㎞、Jパワー(電源開発)が建設中の大間原子力発電所を訪ねる。南北1.4㎞、東西1㎞の敷地は約130ha(東京ディズニーランドの約2.5倍)。正門守衛所(標高40m)を抜け、海に向かうなだらかな道路を走ると、工事現場らしい灰色の仮設棟が立ち並ぶ一角があり、その向こうに海峡を背にした巨大な原子炉建屋が姿を現した。

「工事進捗率」は大震災前と同じ38%

大間町が原発誘致を決議したのは29年前に遡り、ここに至る道のりは曲折の連続だった。大間原発は、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX燃料)も使用できる世界初の「フルMOX」原発として知られるが、当初は高速増殖炉への中間技術とされる新型転換炉(ATR)の実証炉を作る計画だった。それが、高コストで採算が合わないためフルMOXの改良型沸騰水型軽水炉(ABWR、出力138万kW)に計画変更されたのは1995年のこと。使用済み燃料を再処理して得られるプルトニウムやウランをMOX燃料として再利用するのが「核燃サイクル」の眼目だが、既設の軽水炉で燃やす場合、燃料に占めるMOX燃料の割合は3分の1が限度となる。フルMOXの大間原発は、再処理によって作られるプルトニウム消費の受け皿であり、「核燃サイクル」推進のために計画された国策原発にほかならない。その後、用地買収や漁業補償協定締結に手間取り、原子炉設置許可申請は2004年にずれ込み、08年5月に漸く工事が始まった。本体工事は順調に進んでいたが、東日本大震災の影響で工事は停止。1年半余りの中断を経て、昨年10月にJパワーの北村雅良社長が大間町と隣接する佐井、風間浦両村を訪れ、工事再開を表明した。

標高12mに建つ原子炉建屋は地上4階(38m)、地下3階(20m)の威容を誇り、現在地下1階の床面を建設中だ。冬季の強風寒波を防ぐため鉄骨支柱をすだれのようなシートで覆い、仮屋根で工事現場をすっぽり覆う全天候型建設工法を用いている。日本最大の旋回式クレーン(IHI製)はアームの長さが120m、最大吊り上げ荷重が1千tという優れもの。「原子炉格納容器の完成後に900tの圧力容器をクレーンで吊り上げ、仮屋根開口部から吊り込む作業が圧巻です」(浦島彰人所長)

海側の展望台からは、タービン建屋や廃棄物処理建屋のコンクリート打設、毎秒91㎥という取水・放水設備や復水器設置工事が順調に進んでいることがうかがえた。とはいえ、浦島所長は工事進捗率を大震災前の38%に据え置く。工事再開といっても原子炉周辺工事には入っていないためだ。

原子炉格納容器内モジュールの製作場(2013.10.23 電源開発撮影)

コンクリート打設が進む取水・放水設備(2013.10.23 電源開発撮影)

建設所勤務が7年になる浦島彰人所長(2013.10.18 本誌・宮嶋撮影)

原子力規制委員会が7月に定めた新規制基準に適合するには、津波や地震に加え、竜巻、火山、火災等に備えた安全強化策や、テロやシビアアクシデント対策が必要であり、大きな設計変更が避けられない。Jパワーは、来年春以降に原子炉設置変更許可申請を出す方針だが、来年11月の運転開始予定が何年先になるか、見通せない状況だ。当初計画では大間原発の総工費は約4800億円だったが、大幅な設計変更と工期延長で建設コストが膨らむ懸念もある。

安倍政権「建設中原発」認める方針

原発停止に伴う火力発電燃料費の増加は年間3兆8千億円にのぼり、経産省は再稼働が遅れれば家庭の電力料金は、今より25%上がると試算する。安倍政権は、民主党政権が打ち出した「2030年代に原発ゼロ」を見直し、現実的な計画を示すと明言。ある程度の原発再稼働を見込む。さらに、原子炉等規制法の改正により、原則として運転開始後40年を経た原発を廃止することが決まった今、安倍政権は建設工事を再開した中国電力の島根3号機や建設中の原発の運転開始を認める方針だ。

目下、Jパワー経営陣を悩ませているのは津軽海峡の対岸、道南自治体の反発である。北村社長の「(函館側と)今後安全協定を協議する時期がでてくる」という発言に、急先鋒の工藤壽樹函館市長は「建設を続けながら安全協定とは何事か」と噛みついた。函館市は国とJパワーを相手取り大間原発の建設差し止め訴訟を起こす準備を進めている。函館は大間原発から最短で23㎞、晴天時には巨大クレーンが見えるほどの距離にある。Jパワーは、道・函館市当局に対して情報提供や説明を実施していると話しているが、工藤市長は「福島原発事故以前と同じように、北海道側に一切の説明も意見を聴くこともなく、一方的に工事の再開を通告してきた。世界初のフルMOX原発ということで危険性が指摘されている」と、声高に訴える。函館市と、同調する道南10市町が連名で「無期限凍結」を求め、経産省や内閣府、自民党や公明党に要請書を提出した。Jパワーが規制委員会に安全審査申請を出す前に、函館市が訴訟を起こすとの観測もあり、険しい道が続きそうだ。

   

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