「原発処理」は国の責任 民主党も「憲法改正草案」

馬淵 澄夫 氏
民主党幹事長代行

2013年9月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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馬淵 澄夫

馬淵 澄夫(まぶち すみお)

民主党幹事長代行

1960年奈良県出身。横浜国大工学部卒業。三井建設入社。上場企業取締役を経て、2003年衆院初当選(連続4回当選)。国土交通相、内閣府特命担当相を歴任。震災後は総理大臣補佐官として原発事故対応にあたる。昨年12月民主党代表選に出馬するも敗れる。5月より現職。

写真/平尾秀明

――海への汚染水流出など福島第一原発(1F)でトラブルが続出しています。

馬淵 1Fの全ての情報とデータを握っている東京電力が事態を過小評価し、場当たり的な対応を繰り返し、不都合な情報を隠蔽する体質は、少しも変わっていません。より深刻なことは、自民党政権になって国の関与が著しく後退し、「東電任せ」になっていること。発災直後、民主党政権は東電本店に乗り込み、私は総理補佐官として事故収束に当たりました。我々は民間企業の東電に強制力を働かせ、未曽有の危機に対応したのです。当時の「統合本部」で東電役員の責任回避を目の当たりにしました。原子力部門のトップである武藤栄副社長に中長期対策の責任者になってほしいと頼んだら、「小森明生常務はどうか、勝俣恒久会長ではどうか」と固辞するのです。原子力・立地本部長の武藤副社長以外にあり得ないのに、これには正直驚きました。

「凍土遮水壁」は本当に凍るのか

――高線量の瓦礫が散乱する現場で働く社員や作業員が気の毒になりますね。

馬淵 首相官邸で「放射線遮蔽プロジェクト」を担当した私は、1号機建屋のカバリングや4号機使用済み燃料プールの耐震補強工事を完成させ、「地下水汚染」対策に取り組みました。発災直後に建屋内に大量の汚染水が溜まり、その真下を地下水流が洗い流し、海に流出していることが判明したからです。汚染水と地下水が混ざり合うのを防ぐため、我々は建屋の四方を掘り下げ、ベントナイト(粘土)の壁で取り囲み、地下水を遮断する計画を提案しました。しかし、これには大規模な土木工事と数千億円の費用がかかるため、東電の猛反対に遭い、結局、計画はお蔵入りになった。

――8月7日、経済産業省は1日300トンの汚染水流出を認めました。

馬淵 今からでも遅くない。地下水の汚染を防ぐには、お金がかかっても1Fを「完全遮水」するしかないのです。

――政府予算で凍土遮水壁を築き、地下水を遮断する方針が固まりました。

馬淵 果たして「凍土壁」がベストの方法か。考えられるメリットはコストと工期です。工事費は400億円規模というから、私が総理補佐官時代に提案したベントナイトの壁より安い。凍土にするための凍結管施工は簡易で早くできるでしょう。一方、デメリットは、凍結させようとする土中に異物や構造物があれば、そこを抜け道に水が浸入する可能性があること。凍土工法の方が物理的な粘土の壁より効果が高いというが、それは理想的な地下の状態を前提にした議論です。更に、日量1千トンもの温度の高い地下水が流入する地中で、本当に凍るのか。例えて言うなら川の中に凍結管を入れて、流れが止まるかということです。技術的な検証が十分とは到底思えません。また、コスト面も長期的に見て本当に安いのか。初期コストは抑えられても膨大な維持費、更新費がかかる恐れがあります。

――遮水工事は廃炉の前段でしかない。

馬淵 自民党政権は廃炉工程表を改定し、デブリ(溶融核燃料)の取り出しを前倒しすると発表したが、これは、さも廃炉が進んでいるように見せかけているだけです。そもそも原子炉内の状況がわからず、デブリが原子炉格納容器や配管に散らばっている1~3号機は、まったく手つかずです。政府は30~40年後に廃炉を完了するというが、様々な技術的課題のメドが立たず、現時点で1Fが更地になるような幻想を振りまくのは無責任極まりない。小さな作業一つとっても、現実的、具体的に考え始めると、途端に壁にぶつかります。1Fは世界で最も困難な現場であり、その現実に向き合わなければ、早晩立ち往生するでしょう。

「代表選」に出る覚悟はできている

――原発事業は民間任せにできますか。

馬淵 民間企業が原発事業の全責任を負うことは難しい。ひとたび原発事故を起こしたら、想像を絶することになる。民間会社が処理費用や賠償を十分に行える資産を持つことは不可能です。そもそも原発は「国策民営」ですから、国が一義的に責任を負うのが本筋です。例えば使用済み核燃料の処分方法は、いまだに確立されていません。これなど政府が解決を先送りにしてきた「不作為」の最たるものです。現在の原子力損害賠償法を改め、原発の運営から賠償まで、国の責任を明示しなければならないと思います。

――民主党は参院選で大敗しました。

馬淵 福島原発事故によって、政治不信は否応もなく高まりました。我々政治家は危機に対する構えが甘く、あまりに無力でした。特に民主党は、あらゆる事態においてリアリズム、戦略的思考、マネジメント力が欠如していた。衆参立て続けの大敗北が、それを物語っています。

――党勢をどう立て直しますか。

馬淵 私は昨年12月の党代表選挙で「党復活三カ年計画」を掲げ、2015~16年の最終決戦に向けた取り組みを訴えました。まず為すべきは地方組織の強化です。我が党には減ったとはいえ2千人を超える県市町村会議員のネットワークがあります。今後予定される自治体議員選挙では候補者擁立を積極的に進め、総支部長(次の国政選挙立候補予定者)と党を支える地方議員の拡大に全力を挙げます。県連、総支部のあり方、総支部長と自治体議員の関係を見直し、民主党を「国会議員中心の党」から、地方議員も同じ立場で参画できる「国民政党」へ変えていきます。次に基本政策の練り直しです。私は、民主党も憲法改正草案を作り、世に問うべきだと思います。自民党の草案は、憲法が国家権力を縛るという立憲主義の根本をわきまえぬ滅茶苦茶なものです。二つ並べてみたら優劣がはっきりします。さらに肝心な点は、持続可能な社会保障の姿を示すことです。年金・医療・介護を全ての世代で支え合う制度にするというが、リアリティのある国づくりの基礎を示し、信を問うべきです。

――代表選を求める声が強まっている。

馬淵 先の代表選で戦った者として、いつでもその覚悟はできています。

   

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