罷り通る「ボッタクリ契約解除金」

ごちゃごちゃ言わない富裕層や大人しい消費者に付け込む大企業の「手口」にご用心。

2013年9月号 DEEP

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ジェイコムのホームページ(下線部は違約金についての説明)

ぼったくりと言えば、東京・新宿歌舞伎町や大阪・ミナミの飲食店・風俗店などが頭に浮かぶが、実は大企業も消費者が大人しいのに付け込み…。

「東京電力から中部電力の営業エリアへ引っ越して、契約解除料を請求されたら頭にくるでしょう。地域独占企業のぼったくりは許せない」と怒りが収まらないのは、東京都世田谷区に住む50歳代の男性だ。

男性によると、今年3月、同じ世田谷区内で引っ越すことになり、ケーブルテレビとインターネット、IP電話を契約していたジェイコムイーストに営業エリア外へ出ると連絡したところ、「お得プラン」の途中解約だとして、契約解除料8925円(税込み)を要求された。

「お得プラン」は携帯電話の割引契約と同じ2年継続で、途中解約すると、違約金が生じるという。そもそもジェイコムイーストなどを傘下に持つジュピターテレコムの30%株主がauを運営するKDDI(2012年12月期有価証券報告書による)。携帯電話にならって「2年縛り」の割引料金を作ったとみられる。

「消費者団体訴訟」も視野

男性は携帯電話の契約解除料にも疑問を持つが、ジェイコムの場合はさらに大きな、次のような問題点があると指摘する。

①激しい競争をしている携帯電話と違い、ケーブルテレビは地域に原則1局で、常識的な範囲なら料金は自分たちで決められる。他社から利用者を奪うための割引料金は必要ない。

②放送法で公共の福祉や放送の普及に尽くす義務があり、違約金は法の趣旨にそぐわない。

③消費者契約法9条は、解約に伴う「平均的な損害額」を超える違約金は無効と定めている。どんな経費を使えば独占企業が利用者1人当たり8925円もの損害を被るのだろうか。

④男性は10年に契約し、自動更新されて2度目の2年契約だった。1度目の契約と違約金が同額というのもおかしい。

⑤契約時に「2年縛り」や違約金について詳しく説明しない。ジェイコムのホームページ(HP)を見ると、9700円が8700円になるという「お得プラン」の説明で、違約金は小さな文字で「前記(1)の条件を満たさなくなった場合には、8925円(税込)の契約解除料が必要」と分かりにくい表現で書かれているだけだ=写真。

これらは利用者に共通する問題点だが、男性は個別のトラブルも抱えた。①~⑤の理由から違約金に納得いかないので、男性はジェイコムの料金支払いに使っていたクレジットカードを解約し、違約金は男性に直接請求するよう、通知した。

ところが、ジェイコムは違約金などをカード会社に請求し、男性はカード会社とも何度も折衝しなければならなくなった。カード会社は男性の申し出を受け、違約金などの請求は保留しているという。

男性は請求先変更の通知を無視されたことで物理的、精神的損害を受けたとして、ジェイコムに20万円の賠償を求める本人訴訟を東京簡裁に起こした。すると、ジェイコム側は三井住友銀行の社外取締役を務めるなど企業法務できわめて著名な野村晋右弁護士らを代理人に立て、徹底抗戦している。

男性は、①~⑤の点については、消費者団体訴訟といって、政府認定のNPOが消費者の代表として訴訟を起こす制度があるので、それを利用できないかNPOに相談中という。

「ジェイコムは違約金の裁判になると思って著名な弁護士を並べたのだろうが、20万円の訴訟に数百万円の弁護士報酬が必要なのでは。株主はこんな無駄遣いを正した方がいい」。ある弁護士は笑いながら話す。

また別の弁護士は「ケーブルテレビを契約しているのは富裕層が多く、ごちゃごちゃ言わない。それに付け込み、法外な違約金を取っているのではないか」とみている。

ジュピターテレコムの広報は「当社は放送法に基づく登録をしており、(違約金支払い義務を定めた)約款は総務省に届けているので問題はない」とし、総務省は「届け出なので、そのまま受理している」という。

「退去通告2カ月前」の特約

「ごちゃごちゃ言わない」あるいは言えない人から、おかしなお金を取っている大企業はほかにもある。

30歳代の女性会社員は「三井」と名の付く会社、商品とは決して関わらないようにしている。それは数年前に不愉快な出来事があったからという。

女性は三井不動産グループのレジデントファーストの仲介で港区のマンションを借りていたが、転勤で1カ月後には転居しなければならなくなった。

三井側に伝えると、契約書には「退去通告は2カ月前」と書かれているとして、住めないのに1カ月分の家賃十数万円を支払わされた。

国土交通省が作成している賃貸住宅標準契約書では、退去の申し出について「少なくとも30日前に解約の申し入れを行うことにより、本契約を解約することができる」としている。会社員の引っ越しを伴う転勤は、遅くとも1カ月前に内示されることが多いことを考えると、国の標準契約書は当然と言えそうだ。

「三井不動産という最大手の企業グループが国の標準契約書を無視している。文句の一つも言ってやりたかったが、転勤しなければならず、そんな余裕はなかった」と女性は振り返る。

退去通告2カ月前について、三井不動産グループは「契約は物件によって異なり、その内容は公表していない」、レジデントファーストは「特約条項を含めて契約内容はすべて貸し主が設定している」とそれぞれ広報が本誌編集部に回答した。

そこで、グループの三井不動産住宅リースが貸し主の世田谷区のマンション「パークアクシス三宿」について、レジデントファーストに電話で問い合わせると「退去通告は原則として2カ月前です」と説明した。

同社のHPで「三井の賃貸」は「いちばんに、住む人のこと」と書かれているが、前出の弁護士の一人は「賃借人が退去すると、ハウスクリーニングなどで1カ月くらいは次の人に貸せない。その期間も家賃をぼったくるのは『いちばんに、貸す人のこと』なのだろう。業界の範たる三井不動産が何たること。恥を知るべきだ。株主も黙っていてはいけない」と話している。

   

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