メッキが剝げた日本の格安航空

大赤字でもどこ吹く風の「ジェットスター・ジャパン」。日航の「ミルク補給」で生き残る。

2013年9月号 DEEP

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ジェットスター・ジャパンの鈴木みゆき社長

AFP=Jiji

昨年、国内勢3社が相次ぎ営業を開始したLCC(格安航空会社)。「日本の空が変わる」などと騒がれたが、早くもメッキが剝がれ出した。エアアジア・ジャパンは、親会社の全日本空輸(現ANAホールディングス)とアジア最大のLCC、エアアジア(マレーシア)が衝突し、合弁を解消。日本航空系のジェットスター・ジャパンも深刻な経営難に陥っている。

ジェットスター・ジャパンの2013年3月期決算は上場していないため非公表だが、営業損益が50億~60億円の赤字だったとされ、エアアジア・ジャパン(営業赤字35億円)よりも傷が深い。「今春以降、毎月10億円前後の赤字を垂れ流し、120億円の資本金を食い潰している」(関係者)。既存株主を引き受け先とする100億~200億円規模の第三者割当増資が浮上したが、これが難航している。

「黒字」は公的支援のお蔭

ジェットスター・ジャパンの株主には日航のほか、豪州のLCCでジェットスターの親会社であるカンタス航空グループ、三菱商事、東京センチュリーリースが名を連ねる。この株主構成を組むのにひと悶着があった。

ANAHDがピーチ・アビエーションとエアアジア・ジャパンのLCC2社の設立を決めたのは3年前。かねて日本参入を狙っていたジェットスターは、国土交通省を通じて日航とのLCC設立を求めた。当時、日航は再建途上。会長の稲盛和夫はLCC設立に前向きとは言えず、日航以外の出資者を募る必要に迫られた。そこへ、航空機リースにビジネスチャンスを求めた三菱商事と豊田通商が現れ、日航、カンタスグループと両商社が各25%出資するスキームがまとまった。ところが、設立寸前に豊通が降りてしまい、その代わりに同じく航空機リースを狙う東京センチュリーリースが加わることになった。

こうした経緯から、ジェットスター・ジャパンはリース会社の意向を強く受けるLCCとしてスタートした。先発のピーチの10機、エアアジア・ジャパンの5機に比べ、ジェットスター・ジャパンが13機も保有するのは、このためだ。しかも、就航1年目の平均搭乗率が、LCCの損益分岐点とされる8割を下回り、客足が伸びないのに就航3年目に保有機材を現在の約2倍(24機)に増やす計画だ。その実現が不可能に等しいため、三菱商事と東京センチュリーリースが追加増資に及び腰だ。

増資問題につまずけば青ざめるものだが、ジェットスター・ジャパンの経営陣は安閑としている。「最後は日航がカネを出すから」と、ジェットスター・ジャパン関係者は言う。

日航が7月31日に発表した14年3月期第1四半期の連結業績は、営業利益が前年同期比29.8%減の220億円。純利益は同31.9%減の183億円となった。燃料費の高騰で減益になったが黒字を確保した。

一方のANAHDは悲惨である。バッテリートラブルを起こしたボーイング787を、世界最多の17機保有し、国際線と国内線で運航している同社の連結営業損益は56億円の赤字、当期損益は66億円の赤字となった。しかし、黒字の日航と赤字に転落したANAHDの収益格差は、保有する787型機の多寡が主因ではない。いちど経営破綻した日航に対する公的支援の恩恵の方がはるかに大きいのだ。

10年1月19日に会社更生法の適用を申請した日航は5215億円の債権放棄と3500億円の公的資金を受けた。会社更生法の適用申請を受けた企業は、継続使用する固定資産や棚卸資産などが財産評価損失として損金算入できるうえ、期限切れ欠損金を債務免除益と相殺できる。

その結果、日航は18年まで法人税と地方税が免除され、その合計は3836億円にのぼる。13年度に限ってみれば418億円が免除されるため、日航の14年3月期4~6月期の黒字決算は公的支援のお蔭である。

ANA系は背水の陣

「1周年のお祝いにサプライズで大きなケーキを用意してくださいました」。ジェットスター・ジャパン社長の鈴木みゆきは、しばしば従業員宛てにメールを出す。7月29日付ではシンガポールに出張した際、他のジェットスターグループの仲間から歓待されたことを報告。その文面は社長としての資質を疑わせるものだが、そもそも鈴木は外資系を渡り歩いた、航空業界とは無縁の経営者である。

「拠点とする成田から札幌や福岡に飛ばすのは理解できるが、成田~大分、松山、関西、名古屋といった路線の意味がわからない」と航空業界関係者は言う。業界最多の13機を持て余し、明らかな不採算路線を開設。夜間の離着陸制限のある成田を拠点に成長するのは難しいため、関西国際空港を拠点化しようと画策したが、国土交通省から270人余りの従業員で13機を安全に運航できるかといちゃもんが付き、5月に断念した。

それでも鈴木はへこまない。「サプライズプレゼント」への歓喜を臆面もなく報告したメールには、こんな記述もある。「わが社の運航実績や消費者の信頼度は我々の姉妹会社のみならず他の航空会社からも羨望の的です」。毎月10億円前後の赤字を垂れ流し、資本を食い潰しているのに能天気と言う外ない。

一方、同じく苦境に陥っているANA系のエアアジア・ジャパンは、エアアジアから航空機のリースを受けていたが、喧嘩別れになったため機材の早期返却を求められ、9月以降、一部運休となり、10月26日をもってエアアジアブランドでの運航を終了する。

ANAHDは12月にLCC子会社の社名を変更し、運航を再開する方針だが、現在の5機体制に復帰するのは来春以降になる。8月中に新ブランド名を打ちだし、9月には運航スケジュールを公表する予定だが「一から出直しだ」(関係者)。

LCCに過大な期待を抱いたのはANAも日航も同じであり、思ったほど利用客が伸びず、ビジネスが軌道に乗らない悩みを抱えている点も似たり寄ったりだ。しかし、その先行きについて、エアアジア・ジャパンが背水の陣の戦いをしているのに、より深刻な赤字のジェットスター・ジャパンが安閑としていられるのは、税金投入でピカピカになった日航が「ラストリゾート」になっているからだ。

民主党政権下で「過保護なV字回復」を果たした日航の我が世の春を、与党の一部は苦々しく思っている。「競争環境が歪んだLCC市場は発展を望めない」(自民党議員)との声もある。秋の臨時国会で、破綻企業への公的支援の見直しが俎上(そじよう)に上るかもしれない。(敬称略)

   

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