総選挙「違憲」判決に国賠訴訟の最終兵器

升永 英俊 氏
「一人一票」訴訟代理人、弁護士

2013年4月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 阿部重夫

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升永 英俊

升永 英俊(ますなが ひでとし)

「一人一票」訴訟代理人、弁護士

弁護士(兼ニューヨーク州弁護士、ワシントンDC弁護士)、TMI総合法律事務所パートナー。1965年東京大学法学部卒、住友銀行を経て73年に東大工学部卒。79年、米コロンビア大学で修士号取得。「青色LED訴訟」で原告、中村修二氏の代理人を務めるなど特許権・税務訴訟を手がけた。

写真/大槻純一

――東京高裁を皮切りに「一票の格差」訴訟で違憲判決が相次いでいます。

升永 まず「一票の格差」という言葉が僕は諸悪の根源だと思っているんです。裁判を始めた3年半前に一人一票訴訟を8高裁で起こして以来、マスコミには「一票の格差」は死語にすべきだと訴え続けたけれど、いまだに改まらない。格差の幅が大きいとか、広がったとかの議論では幅の問題になる。じゃあ、高知3区と千葉4区で2.5倍のある格差を、「0増5減」で1.
75倍にするのがゴールでしょうか。

――憲法にも公職選挙法にも2倍未満ならいいという目安はありません。

升永 ええ、肝心なのは主権者が誰か、国家権力は誰が行使するのか。これまでその発想がゼロだったんです。主権者である有権者の多数意見で国会議員が国家権力を行使する、というのが日本国憲法でしょ。国会議員は単なる道具、紙人形でしかない。ところが、現状は「少数決」で選ばれた国会議員に国家主権を行使させている。取締役会から小学校の級長選挙まで多数決なのに、国家権力の行使だけ少数決なんてバカなことがありますか。

米下院では人口差は1人

――民主主義国家の原点に帰れと。

升永 最大区と最小区の人口差は日本では29万人ですが、州で同じ小選挙区制の米下院はその差が何人か知ってますか。正解は1人。私も最近調べてショックを受けました。ペンシルベニア州は一区で60万人と、49万人の千葉4区より大きいのに徹底している。そこまでやらなければ、民主主義の多数決は成り立たないんです。80年代に最大と最小で3600人の差があるニュージャージー州で違憲判決が下った。裁判所は6カ月の猶予を与えて区割りのやり直しを命じ、州議会が合意できないと、判決に添付した区割りで6年間続けたんです。

――立法府の怠慢を司法が許さず、代案まで提示した。 

升永 02年にはペンシルベニア州で19人差に違憲判決が出て、3週間以内に人口比例の区割りを立法せよと命じた。そうしたら、議会は人口差1人の区割りの法律をつくって、10日後に知事が署名して発効させたんです。人口動態は日々変動するので、あくまでも国勢調査ベースですよ。米国は原理主義と言いますが、日本だってできないことはないはずです。

――高裁でついに違憲判決が出ましたが、選挙を有効としたので、立法府はまたほっかむりですかね。

升永 国家の立法を司る資格のない人が国会議員と称しているんですよ。内閣自体にがないから、行政を司る役人も、内閣が任命する裁判官も正当性がない事態です。「0増5減をやらなかったから違憲」という判決なら人口比例選挙の否定です。「一人一票の人口比例選挙が憲法の要求である」と明言して違憲判決が出ることが絶対条件です。最高裁が人口比例選挙を明言すれば、国会に無視されない方法があるんです。

国家賠償法1条2項では、故意または過失のある公務員が金銭的な負担を個人で負う。これを使って、我々はまず原告50人で国賠訴訟を提起します。

――勝てますか。

升永 国賠法の要件は、①公務員であること、②公権力の行使、③違法、④故意または過失、⑤損害が発生していること――の五つです。違憲違法判決か違憲無効の判決が出れば、③を含めてすべて満たすことになります。損害額算定は、在外邦人が海外で小選挙区に投票できなかったことに最高裁が一人5千円の慰謝料を認めた05年の判例がありますから簡単です。

――微々たる賠償額では?

升永 とんでもない。地裁で国賠訴訟に勝てば、大きなニュースになるでしょう。有権者は、1億451万人です。全員が原告になり得ます。控え目にみても、1千万人が原告となるよう手を挙げるでしょう。原告になるために必要なのは委任状と住民票。勝訴すれば一人5千円から経費を除いた金額が手に入ります。

――それは面白い。ネットで国会炎上のマツリになるかも。

升永 1千万人の原告の訴訟になれば、賠償額は500億円です。最終的に賠償金を負担させられる議員個人の責任は半端じゃない。年5%の利息が付くので、たまらんですよ。国会議員各人の個人責任を追及しない場合は、内閣総理大臣を責任を負うべき公務員と指名して、二の矢の国賠訴訟を提訴できる。最終的には内閣総理大臣が一人で500億円を背負いこむ可能性ありです(笑)。それを武器に、最高裁判決が出たら内閣と国会に3週間の猶予付きで人口比例選挙の法改正を要求する。

――小選挙区の区割りは?

升永 時限立法を一つ成立させるんです。中身は簡単で、①衆議院小選挙区制を全廃する、②小選挙区300人を参院の比例代表で行う、③この法律は1カ月限定とする――の3条だけ。これだったら、キツネに鶏小屋の番をさせるようなことはしなくて済む(笑)。それを1日でやり、解散して1カ月以内に再選挙をするんです。

国民主権の正当性ある国に

――比例代表なら格差ゼロ。それで国会は正当性を取り戻せる。

升永 正当性を取り戻した議会が徹底的に議論して、選挙制度を一から作り直せばいい。小選挙区制でも区割りは人口比例でやればいい。日本史上初めて、国民主権の正当性を持った国家をつくりたいというのがこの裁判なんです。半端じゃありませんよ。

――司法府による立法府に対するクーデターですね。衆参のねじれどころか、司法・立法のねじれになる。

升永 参議院も4増4減で4.75倍です。これで7月の参院選をやろうというんだから、国家レベルの異常ですよ。もちろん訴訟を起こします。

   

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