ドコモのアテ外れ「MVNO潰し」

「土管の親玉」が政治力で総務省の尻を叩いたが、政権交代が早まり仕切り直しに。

2013年1月号 BUSINESS

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民主党の野田佳彦総理が年末総選挙に打って出たことは、NTTドコモにとって誤算だったのではないか。

総選挙が公示され、各党党首が一斉に街頭で第一声を放った12月4日、日本経済新聞などに「ドコモが競争阻害」という記事が載った。通信ベンチャーの日本通信(ジャスダック上場)が、総務省に対し接続料の基準を明確にするよう申し立てたという内容である。

日本通信はドコモの基地局網を借り、月980円のデータ通信サービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)だ。通信の競争政策の目玉、MVNOのパイオニアだけに、自社で基地局網を保有するMNO(移動体通信事業者)のドコモとは、過去に接続料をめぐって対立し、07年の大臣裁定や行政指導でやっと接続した経緯がある。

原価算定が「二重基準」

今回、因縁の対立が再燃したのは、11年にドコモが一方的に接続約款を改定、1.5倍以上に値上げして不足分を支払えと日本通信に督促したのがきっかけ。総務省が仲裁に入ったが、12年3月に破談、契約違反をめぐる民事訴訟に持ち込まれた。

総務省は「民・民間の覚書は意見を言う立場にない」(料金サービス課)と静観の構えをとった。ところが、所管の総合通信基盤局長が桜井俊氏から吉良裕臣氏に交代すると、10月23日に新局長のもとで私的な「モバイル接続料算定に係る研究会」が発足。接続料算定の適正性向上などに絞って、シェア10%以上の第二種指定事業者への規制(ドミナント規制)ガイドラインを見直す検討に入った。

日本通信はこれに疑念を抱き、「民・民協議に任せると言いながら、裁判の判決も待たずに二種指定ガイドラインを改定、MNOに有利な規制を既成事実化しようとしている」と見た。

本誌も11月号で、この研究会がむやみと審議を急いでいるのは「結論先にありき」だからではないか、と疑問を呈する記事(「通信3社寡占で次はMVNO『扼殺』研究会」)を載せた。

日本通信は11月に行われた研究会の事業者ヒアリング(非公開)を欠席、座長にその理由を説明する文書を総務省に提出した。なぜか座長には届けられず、ヒアリングはMVNO最大手不在の欠席裁判。そこで日本通信は、ガイドラインの一方的改定を牽制するため、電気通信事業法172条に基づく申し立てを12月3日に行ったのだ。

その内容は、接続料の原価算定基準がダブルスタンダードになっていて、NTT系のMVNOに対し「原価割れに近い割安料金で提供している可能性」があるというもの。外部MVNO向けには過去3年間の平均をもとにしながら、内部MVNO向けにドコモは将来原価を入れた3年平均を算定根拠にしている、と日本通信は主張する。

接続料は設備費用をトラフィック(通信量)で割った数字が積算の根拠になる。「ムーアの法則」ではないが、年々設備が高度化しトラフィック量が急増している現状では、3年のズレは大きな競争条件の差になる。逆に言えば、将来原価を入れるという「時間差」こそ、通信大手3社の優位の源泉であり、日本通信はこの急所を突いた。

研究会が結論を急ぐ裏で、ドコモが暗躍していることは衆知の事実。実は日本通信との契約違反訴訟の旗色が悪い。両社間に合意はなかったとする主張が行き詰まり、電気料金の消費者約款のように、MNO側の都合で約款を一方的に変えられるという論理に転じている。

これは商法上も無理があるうえ、ドコモ経営企画部企画調整室の担当者が、メールで日本通信に対し「接続停止(一部)の事態も招きかねない」と警告、「優越的地位の濫用」との反発を招いた。当時の山田隆持ドコモ社長が遺憾とする文書を出したこともあり、方針転換して得意の政治力に頼ったのだ。やはり独占DNAは消えず、競争嫌悪症が顔を出した。

その前兆は11年から始まっている。同年8月号の本誌が報じたように、6月半ばにドコモは「相互接続の見直し」と「接続義務の柔軟化」の必要性を説き、MVNO見直しを求めるパブリックコメントを総務省情報通信審議会(情通審)に提出している。同省の競争促進派が定めた「MVNO事業化ガイドライン」が、欧米に比べオペレーターに厳しすぎるとの論理だった。

09年の政権交代で民主党政権が誕生し、ドコモの天敵、ソフトバンクモバイルの孫正義社長が「政界風見鶏」の原口一博総務相(当時)に吹き込んで「光の道」構想が浮上した10年当時、ドコモは押さえこみに懸命で、民主党の有力支持母体、全電通も動員したほどだ。

5カ月で滑り込みの目算

ところが、3・11の東日本大震災後、孫社長がメガソーラーに走って「光の道」の脅威が薄れると、今度は「孫の居ぬ間の洗濯」にMVNO潰しを画策した。当時は米アップルやグーグルなどの攻勢で、日本の通信事業者が「土管化」し「6500億円の収益減になる」と黒船脅威論をあおったのである。

そして消費税増税を強行した野田政権の余命がいくばくもなくなった12年秋、ドコモは総務省を再びプッシュしてMVNO潰しを急いだ。全電通カードが切れる民主党政権のうちに滑り込みでガイドライン改定を急いだのだ。傍証は二つある。

本来、情通審接続政策委員会に諮るべきなのに、それを避けてイエスマンを集められる基盤局長の私的研究会に諮ったこと。11年のMVNO見直しが審議会でヤリ玉にあがったからだ。しかも改定はMVNOガイドライン置き去りで、二種指定ガイドラインだけと歪んでいる。

もうひとつは研究会のスケジュール。12年10月23日に始まって13年3月中旬に報告書決定となっている。これだけ問題含みなのに、たった5カ月しか審議期間がない。さらにこの日程は、総選挙を4月以降と踏んでそこから逆算したとも見える。

政権交代前の駆け込み改定――そのもくろみが野田総理の「決断」で吹っ飛んだ。新総務相次第では一からやり直しか。今度は自民党にすり寄ってMVNO苛めに励むのか。

   

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