2012年12月号 BUSINESS
半導体や太陽電池の主原料であるポリシリコン国内最大手のトクヤマが市況悪化と円高の影響をもろに受け、危機的状況に直面している。需要急増を見越して断行したマレーシアへの大型投資が裏目に出て上期業績は減収減益、純損益も25億円の赤字に転落した。さすがに投資戦略を変更したが、市況回復のめどは立っていない。第1期分を完工し、もはや後戻りはできず。赤壁の戦いを勝ち抜くしかない。
石橋を渡らず叩き割ってしまうほど慎重なトクヤマがマレーシア工場の建設に着工したのは昨年2月。「創業100周年に向けてハラを決めた。リスク覚悟の大型投資、日本にいては勝てない」(幸後和壽社長)との意気込みだった。太陽電池市場は急成長しており、主原料のポリシリコンの相場は1キログラムあたり80ドル前後で推移していた。第1期工場が稼働する13年6月のポリ相場は45ドル、第2期工場が稼働予定の14年でも同40ドルと下落幅を想定、それでも十分な利益が得られると踏んでいた。
ところが世界経済は激変し、いまのポリシリコン相場は20ドル台、スポット価格ならば10ドル台に暴落している。加えて円高も定着した。これだけ環境が変化すると、早期の事業撤退も視野に入るはずだが、第1期プラントが11月に完成する今となっては難しい。仮に主力工場の山口・徳山製造所に生産を集約したとしても、世界一高価な電気代と労働コスト、円高下にあって競争力は得られない。もはや前に進むしか、選択肢は残っていない。
ポリシリコン最大手の米ヘムロックセミコンダクターや独ワッカーケミーも状況は同じで増産投資を延期しているものの、世界有数の化学会社をバックに持つ両社の資金調達力はトクヤマとは桁違いであり、市況低迷にも耐えられる。それでもトクヤマはポリシリコン市場において世界シェア15%程度を確保しておかねば価格決定権を行使できず、収益がさらに悪化する悪循環に陥ってしまうという事情がある。事業を継続するにはライバルに負けない増産が欠かせないのだ。
採算悪化と増産のジレンマに対して同社は、マレーシア工場での生産品を太陽電池向けから半導体向けに転換するという打開策を打ち出した。半導体市況も厳しいが太陽電池よりはましという、苦肉の策である。
そもそも日の出の勢いのあった太陽電池産業が、なぜこういう状況になったのか。主因は中国勢の太陽電池モジュール安売り攻勢にあるとされる。安価なモジュールと併せて原材料相場も下落していった。その結果、中国のポリシリコンメーカーでさえ採算が合わなくなり、中国政府は立て直しに業界再編を模索しているほどである。この異常事態は太陽電池モジュールの需給バランスがとれない限り、続くとみられる。
有利子負債が408億円増えた同社だが、自己資本比率は46%、有利子負債/自己資本は0・78と財務内容は健全水準。だが、ポリ相場10ドル台がこのまま続けば「償却など不可能」とされる。中期経営計画では売り上げ5千億円、営業利益率15%以上を目指しているが、はたして18年2月の創業100周年まで持ちこたえられるのか。すべては太陽電池市場の行方にかかっている。