2012年7月号 連載
昨年、FACTAが起爆したオリンパス事件は、ウッドフォードと会社側との間で不当解雇に関する和解が成立して一段落した。この事件を機に、企業統治の改革攻防戦がいくらか活発になった。「日本的経営の良いところを残しつつ欧米的経営の長所を取り入れて、日本の風土に合った最適モデルの構築をめざす」。早晩、そんなきれいごとに収斂・終結するに違いない。まあ、どうぞご勝手に。
それにしても日本の風土とは? 万葉集は素直で露骨だった。「海人(あま)ども汝(な)が名告(の)らさね」「旅行く人に我が名は告らじ」。千年以上下ってロックバンドのドアーズが「Hello, I love you. Won’t you tell me your name?」と酷似する歌詞を歌う。男女に東西南北なし。とはいえ、平安中期になると、万葉の素朴さが高度のヒネリに化けていく。企業統治も「日本的」という名の下でヒネリの時代が長く続き、メディアの怠慢もあって「正義」の特定が難しい。もっとも、正義にこだわってばかりでは前へ進まない。また正義を措いて大義に東西南北なし。さて、残るは誠意。
修行僧、翻訳・執筆業 ミラー和空