直面する「生活保護の連鎖」

受給世帯の親世帯も受給者だった割合は約25%。現役層・勤労世帯層にも急増している。

2012年7月号 DEEP [特別寄稿]
by 大塚耕平(民主党参議院議員(前厚生労働副大臣))

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芸能人の母親の生活保護問題がクローズアップされたのを契機に、生活保護制度の見直しが具体的な政策課題として浮上してきた。付け焼き刃の見直しではなく、問題の本質を踏まえた根本的な対策が必要である。

昨年7月末の生活保護受給者が過去最高を更新し、戦後の混乱期である1951年以来、60年ぶりに200万人を超えた。その後も受給者は増え続け、毎月過去最高を更新。直近(今年2月末)では209万7401人である。保護率は1.64%であり、戦後(昭和26年度は2.42%)の最悪期ほどではない一方、保護世帯数は152万1484世帯と戦後(同69万9
662世帯)を大きく上回る。

これは、大家族から核家族、一人暮らしと、社会構造が変化し、一世帯当たりの人数が減少していることを反映している。

「生活保護の連鎖」にも直面している。受給世帯の親世帯も受給者だった割合は約25%。つまり、受給世帯の4軒に1軒が「生活保護の連鎖」ということになる。シングルマザーの受給者のうち約3割が「生活保護の連鎖」というデータもある。受給者のうち5割以上が中卒か高校中退という「学歴との相関」もあるようだ。

受給世帯の内訳をみると、高齢者世帯、母子世帯、傷病・障害者世帯以外の「その他世帯」の割合が急増している(平成12年度=7.4%→平成22年度=16.2%)。実数でも、5万5240世帯から22万7407世帯と4倍増。「その他世帯」には、現役層・勤労世帯層が多く含まれているとみてよい。

こうした状況を映し、生活保護給付額も急伸。平成21年度に初めて3兆円を上回り、昨年度は3兆5148億円となった。今年度予算は3兆7232億円に達し、このペースで増えると、来年度には4兆円突破の勢いだ。

生活保護増加の三大要因

生活保護の受給者、保護率が最低水準だったのは平成7年(それぞれ88万2229人、0.7%)、世帯数は平成4年(58万5972世帯)。以後は、バブル崩壊の影響もあって一貫して増加傾向を示す。しかし、勢いが加速したのは平成20年以降というのが衆目の一致するところ。その経緯を振り返ってみよう。

増加傾向の抑制を企図した行政は、平成18年に自治体窓口での生活保護申請の審査や認可要件を厳格化する「水際作戦」を行った。その結果、平成19年7月に「北九州事件」が発生。生活保護を打ち切られた男性が、「おにぎりを食べたい」という言葉を日記に残して餓死。ミイラ化して発見された事件を指す。

平成20年3月には「水際作戦」「北九州事件」の反省を踏まえ、厚労省が漏給防止(生活保護申請権の侵害防止)の通知を出す。折しも、サブプライム危機が発生。翌平成20年のリーマンショックを経て、いわゆる「派遣切り」が社会問題化。同年暮れには「年越し派遣村」が耳目を集めた。平成21年暮れには「年越し派遣村」第2弾に合わせ、迅速な審査、適切な認定などを促す通知を出した。

こうした一連の経緯を捉え、「北九州事件」「派遣切り」「年越し派遣村」「厚労省通知」が、生活保護増加の主因のように語られることがある。しかし、その指摘は本質を捉えているとは言えない。生活保護増加の本質的な原因は、第1に経済情勢・雇用情勢の悪化。第2に、受給者が生活保護から抜け出そうとするインセンティブを弱める政策の歪み。第3に、倫理観・家族観の変質の3点である。

第1の原因に対しては、景気対策等による経済情勢好転、求人増加を図ることが王道である。雇用促進策も考えられるが、景気回復、経済情勢好転を前提としない雇用促進策は、対症療法にすぎない。

第2、第3の原因の結果、由々しき状況が構造化している。すなわち、真面目に働いて得る収入よりも生活保護給付額の方が高い場合があるという矛盾、働く能力のある現役層が生活保護に安住する傾向、扶養義務のある3親等内親族に所得(扶養能力)があるにもかかわらず生活保護を受けている受給者がいるという現実である。不正受給を行っているケースもある。

ケースワーカーが足りない

生活保護の扶助の種類は、生活、住宅、教育、医療、介護、出産、生業、葬祭など、多岐にわたり、例えば、子供を抱える受給世帯の給付額は25~30万円に及ぶこともある。働いて同額の収入を得ることは必ずしも容易ではなく、一度生活保護を受けると、その状態から抜け出すインセンティブを削ぐ。

生活保護の給付額が高いのか、勤労所得が低いのか。いずれにしても、この歪みを是正するためには、給付額を引き下げる一方、最低賃金等の勤労所得の引き上げが必要だ。

しかし、問題はそれだけではない。例えば、生活保護費の約半分を占める医療扶助。受給者の医療費は本人負担がないため、医療機関が過剰診療や医薬品の過剰投与、検査漬けにする傾向がある。医療機関ごとにレセプト審査を行い、過剰診療にメスを入れることが一案である。また、受給者が診察を受ける医療機関の指定、受給者にも一部負担を求めることなども検討課題となっている。

さらには、無料低額宿泊所に代表される「貧困ビジネス」。受給者を集めて、宿泊所、食事などの面倒をみる一方で、給付額の大半を事業収入とする仕組み。違法とは言えないだけに、難しい問題だ。

親族に扶養義務の履行を促すには、調査等に当たるケースワーカーのマンパワーが圧倒的に足りない。マイナンバー制度がスタートすれば親族の所得状況が把握可能となるが、マイナンバー制度をそのように活用することには議論があるだろう。

また、3親等と言えば、自分の甥や姪、叔(伯)父・叔(伯)母も対象になる。中高年の独身や独居老人が多くなる中、ある日突然、マイナンバー制度で所得情報が把握され、日頃疎遠な3親等親族の扶養義務を通告されて納得するのは容易ではないだろう。

受給者の4割以上は高齢者であり、低所得の高齢者を生活保護で支えるのか、年金制度で支えるのかということも重要な政策課題。現在検討中の新年金制度(最低保障年金、所得比例年金)には、そういう観点からの政策的意義もある。

生活保護の問題は、社会保障制度の全体像や社会のあり方を見直す重要な視点を含んでいる。情緒的な思考に陥らず、冷静に考えることが重要だ。

著者プロフィール
大塚耕平

大塚耕平(おおつか・こうへい)

民主党参議院議員(前厚生労働副大臣)

1959年生まれ。早大政経卒。日本銀行在職中に早大大学院で博士号(マクロ経済学)取得。内閣府副大臣(金融、経済財政担当)、厚生労働副大臣などを歴任。

   

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