岡田克也 氏
副総理・行政改革担当大臣
2012年7月号
POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌
1953年三重県生まれ。東大法学部卒。旧通産省を経て36歳で衆院初当選。2004年民主党代表。政権交代後の鳩山・菅両内閣で外相。幹事長を経て、今年1月より現職。社会保障・税一体改革担当相として野田総理を支える。イオングループ創始者、岡田卓也氏の次男。尊敬する人は織田信長。
写真/平尾英明
――副総理就任以来、「身を切る行革」に取り組んできましたね。
岡田 日本に残された時間は少ない。国家財政の半分を公債で賄い、国と地方を合わせた借金がGDPの2倍近くになっています。民間会社に例えたら倒産寸前。これ以上放置すれば、近い将来、年金や医療や介護などをカットする、血が流れる状況になりかねません。「身を切る行革」は当然のことです。
私が真っ先に取り組んだのは国家公務員の総人件費(約5兆円)の削減です。定員減らしに加えて平均7.8%の給与カットを断行し、年5千億円を超える人件費削減を達成しました。
定年延長については、「60歳定年を65歳に」という人事院の意見は受け入れずに、60歳でいったん定年退職していただくことにしました。その後は「再任用」という形で、1年契約で65歳まで任用していきます。再任用では管理職だった方が平社員並みの待遇になることもあり得る。また、民間より約400万円多い国家公務員の「退職給付」の見直しも急務です。もうすぐ有識者会議の意見がまとまります。速やかに官民格差をなくします。
――新規採用抑制は大騒動でした。
岡田 前政権時代に比べて国家公務員の新規採用を56%減らしました。「若者にしわ寄せ」という批判はありましたが、もちろん、中高年や定年を迎えた公務員の待遇にもメスを入れていくつもりです。民主党がマニフェストに掲げた「総人件費2割削減」に向けて、やるべきことは全部やるという、現政権の決意を示したものです。
――定期刊行物も3割カットした。
岡田 社内の不要な新聞や雑誌を減らし、それを突破口にムダなものをなくして、企業再建に成功した経営者のエピソードを知り、早速、各省庁に定期刊行物の見直しを命じました。その結果、わずか2週間で、中央省庁の契約が前年度の13億円から9億円に減りました。「まだ多い」という批判がある一方で、日本新聞協会からは猛抗議を受けた(苦笑)。霞が関だけで13億円も新聞・雑誌を購入している。それを4億円節約するのがなぜダメなのか。説得力のある反論はありませんでした。
――幹部の送迎も減らしますね。
岡田 今、各省庁の部長以上を朝夕、公用車で送り迎えしていますが、原則局長以上に限定することにしました。結果、幹部の送迎は半分になります。実は、このアイデアを出してくれたのは行政刷新会議の若手スタッフです。
また、中央省庁の職員の育児や介護と仕事の両立を支援するため、いわゆる「早出遅出」制度を積極活用して、勤務時間帯を弾力化します。
行革はひとことで言えば苦しいものです。多くの方が「総論賛成、どんどんやれ」ですが、具体論になると議論が百出します。そういう中で、何が必要なことかをしっかり見定め、やるべきことは徹底的に貫いていきます。
30代の頃、「土光臨調(第2次臨時行政調査会)」の名参謀と謳われた瀬島龍三先生から「着眼大局、着手小局」の考え方を学びました。「幹部送迎」の見直しや「早出遅出」の推奨はいわば小局の取り組みですが、こうした具体論の積み重ねが、公務員の意識改革に繋がり、やがて「霞が関文化」を変えることになると考えています。
――次は「平成版土光臨調」ですか。
岡田 5月に「行革懇談会」を発足させました。京セラの稲盛和夫名誉会長や行政刷新会議の民間議員をメンバーとする私の私的諮問機関です。私から「強いものが勝ち残るのではなく、変化によりよく対応したものが勝ち残る。そういう日本政府を目指したい」と申し上げたところ、先生方から「公のために尽くしたいという公務員本来の志を自覚できるような改革でなければならない」など、非常によいご意見をいただきました。
特に稲盛さんは、私の尊敬する経済人であり、JALをV字回復へと導いた実績の持ち主です。仏教に造詣が深く、様々な著作を通じて、国民に広く知られた方です。この求心力のある稲盛さんを中心に、皆さんにご議論いただき、新しい平成の行革をしっかり進めていきたいと考えています。そして今、民主党が国会に提出中の「行革実行法案」が成立しますと、この懇談会は法律に基づく組織に衣替えすることになります。
――「霞が関」の最大の問題点は?
岡田 雑用も含め忙しすぎることだと思います。仕事は効率的にこなし、役所に長居をしないことです(笑)。自分の時間を持ち、役所と違う経験を積んだり、本を読んだり、趣味を持ったり、それがやがては霞が関全体のパワーアップにつながるのです。
民間の場合でも、本社の企画とか人事・総務とか、いわゆる社内優等生は変革期には使い物にならないそうですよ。海外経験とか子会社勤務など、本社とは別次元で揉まれた人が、社長になるケースが増えています。
――社会保障と税の一体改革法案の与野党協議が大詰めを迎えています。
岡田 消費税を上げることは非常に困難なテーマです。しかし、もし、与野党が協力して、社会保障と税の一体改革を成し遂げることができたなら、その後に控えるいくつかの問題も乗り越えることができると思います。それにより、何より大切なことは、国民の皆さんに「政治が機能しているんだ」と思っていただくことです。
行革についても、政府に対する国民の信頼がなければ実現不可能です。北欧で消費税を上げることが政治的問題にならないのは、政府が税金をきちんと使ってくれると、国民から信頼されているからです。政治に対する国民の信頼を取り戻すこと、これが我が国の最大のテーマだと思います。