「懲罰課税」の中国反骨芸術家に寄付殺到

2011年12月号 GLOBAL

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反逆児・艾未未(11月8日、北京の自宅で)

AP/Aflo

10月15日から18日まで北京で開催された中国共産党の第17期中央委員会第6回全体会議(6中全会)は、メーンの議題が「文化体制改革」だった。経済面で米国に次ぐ世界第2位の大国の地位を固めたあとは、芸術や価値観などの文化面でも国際社会への影響力を高め、西側の民主主義国に対抗しうる「文化強国」をめざすというのだ。

しかし、自国の文化人に対する共産党の“非文化的”な弾圧はつとに有名だ。6中全会の閉幕から2週間後の11月1日、それを象徴する事件が起きた。歯に衣着せぬ政府批判で知られる現代芸術家の艾未未(アイウエイウエイ)に対し、北京市の税務当局が過去の脱税の追徴課税として1500万元(約1億8千万円)の支払いを命じたのである。

昨年10月に獄中の民主活動家、劉暁波のノーベル平和賞受賞が発表された後、共産党は反体制的な言動を繰り返す“問題人物”の監視や弾圧を強化。多数の活動家、芸術家、人権派弁護士などを拘束した。艾も例外ではない。今年4月に「経済犯罪」の容疑で公安当局に拘束され、81日後の保釈まで身柄の所在も明かされなかった。

艾は保釈の条件として脱税容疑を認めることや、外国人と会わないことを約束させられたという。確かに、釈放後しばらくは沈黙を守っていた。しかし、8月末に米ニューズウィーク(電子版)に寄稿したのを機に政府批判を再開、海外メディアのインタビューを積極的に受けていた。今回の追徴課税は、当局との約束を反故にしたことに対する懲罰とみられる。巨額の追徴にもかかわらず、理由や金額の根拠の説明はなく、通知から15日以内に支払えという一方的な命令だからだ。

脱税容疑について、艾は濡れ衣を主張している。だが追徴金を納めなければ異議の申し立ても許されず、再び拘束されるのが確実だ。そこで、中国を代表する詩人だった父親の艾青(アイチン)の旧宅を納税担保として差し出し、追徴の再審査を申し立てようとした。しかし旧宅の価値と一族の資産を合わせても1500万元には遠く及ばない。艾は崖っぷちに立たされた。

ここで、当局にとって予期せぬ誤算が生じた。艾の窮状が「微博(ウエイボー)」(中国版ツイッター)などを通じてネット上に伝わり、支援を呼びかけるメッセージが続々と発信されたのだ。米国のツイッターと違って微博は検閲されており、メッセージは次々に削除された。このため、必ずしも大多数のネットユーザーの目にふれたわけではない。にもかかわらず、わずか3日間で2万2千人以上から600万元(約7200万円)を超える寄付金が殺到したのである。

人々は銀行振込やネット決済サービスを利用し、支持者が用意した口座に寄付金を送った。送金時には個人情報の提示が義務づけられており、公安当局は銀行やネット決済サービス会社の記録から送金者を特定できる。艾に寄付金を送るということは、当局のブラックリストに載るリスクをはらんでいる。

特筆すべきは、それでも多くの人々がリスクを承知で行動したという事実である。北京郊外にある艾の自宅は、当局の監視カメラで24時間見張られている。寄付金集めの情報が伝わると、カメラの前に奇妙な“通行人”が相次いで出没した。彼らは紙幣を紙飛行機にしたり、小石のように丸めたりして、艾の自宅を囲む塀の内側に投げ入れて立ち去った。これもまた、リスクを承知でやっているパフォーマンスだ。

ほとんどの中国市民は、自分や家族がトラブルに巻き込まれるのを恐れ、公の場で政府批判を声高に叫ぶような真似はしない。だが、政府の言論統制や不祥事隠蔽には強い憤りを感じ、心のどこかで艾のような反逆児を喝采しているのである。たった3日でこれだけの寄付が集まったのは、艾の人気の高さだけではなく、政府に対する市民の強い不満の表れと言える。(敬称略)

   

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