「原発」に頼らない社会へ  「節電30%」は実現可能!

吉原 毅 氏
城南信用金庫理事長

2011年7月号 BUSINESS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋

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吉原 毅

吉原 毅(よしわら つよし)

城南信用金庫理事長

1955年東京生まれ。77年慶大経済卒。同年城南信用金庫へ。92年理事・企画部長、96年常務理事、2006年副理事長を経て、昨年11月より現職。自らの年収を支店長(1200万円)以下に抑え、理事長・会長任期を最長4年、停年を60歳とする異色の改革を断行。信金業界切っての論客である。

写真/平尾秀明

――城南信用金庫がホームページ上で訴える「原発に頼らない安心できる社会へ」と題する「脱原発」宣言が話題を呼んでいます。

吉原 大震災の被害は、私の想像をはるかに超えるものでした。痛切に、何かをしなければならないと思いました。城南信金の実質的な創立者である小原鐵五郎元会長は「銀行に成り下がってはいけない」と説いていました。地元の協同組織金融機関である信金は社会貢献(地域社会の繁栄)のために生まれた組織であり、お金儲けのためにやっている銀行ではないということです。信用金庫は困っている人に手を差しのべます。思いやりの気持ちを大切にします。それが、いつの時代にも変わることのない、私たちの原点です。

城南は震災のたびに義捐金1億円を出してきましたが、今回は3億円を寄贈しました。4月以降は常時6~7名の「被災者支援ボランティア隊」を宮城県石巻市に派遣し、被災した宮古信用金庫(岩手県)とあぶくま信用金庫(福島県)に就職予定であった学生10名を受け入れ、6月1日に入職式を行いました。

南相馬市に本店のあるあぶくま信金さんは本当にお気の毒です。警戒区域内の6支店が閉鎖となり、大切な職場とお客様を瞬時に失ってしまいました。浪江町や双葉町の支店には戻れないという異常な状況が続いています。地元の顧客を守り、地域の繁栄に奉仕することが信金の使命です。ところが、全住民が退去させられ、町が消滅する事態が勃発した。これはとんでもないことだという怒りが込み上げてきました。極論すれば、電車の中で誰かがからまれていたら「やめなさい!」と言わなければならないのに、誰も声を上げようとしません。私にはあぶくま信金さんの窮状が他人事と思えませんでした。

家庭でもゲーム感覚で節電

――リスクを嫌う金融界で「脱原発」を宣言したのは御社だけです。瞬く間にツイッターで話題になり、吉原さんのインタビューはユーチューブで7万回も再生されました。

吉原 本当はもっと激しいメッセージを出したかったのですが……。周囲の意見もあって「原子力エネルギーは明るい未来を与えてくれるものではない。それを管理する政府機関も企業体も万全の体制をとってこなかった。これに依存することはあまりにも危険性が大きすぎる」という、穏やかな表現にとどめました。

――城南信金は「脱原発」と併せて、社内の「3割節電」を打ち出しましたね。

吉原 「原発抜き」では現代社会は成り立たないという人がいます。我が国は発電の約3割を原子力に依存しているから、原発は欠かせないとの主張です。それならば徹底した節電運動の実施、省電力設備の導入、断熱工事の施工、緑化工事の推進、ソーラーパネルの設置、LED照明への切り替えなどに挑戦することにしました。その結果、割と簡単に3割減らせました。この「節電ゲーム」は家庭でも楽しめます。毎月の電力使用明細には、去年との比較が出ています。また、自宅の電力計を見ると一日何キロワット使用しているかがわかる。今日は7キロワット使ったから、どこで無駄遣いをしたかなと反省する。こうして私は自宅でも2カ月連続30%以上の節電に成功しました(笑)。

――「原発に頼らない安心できる社会へ」というスローガンを掲げ、地域の顧客の節電を応援する新商品を開発しましたね。

吉原 省電力設備への投資を行う個人がお借り入れいただく際の金利を当初1年間は無利息(2年目以降は1%)とする「節電プレミアムローン」、省電力のために10万円以上の設備投資を行った個人を対象に1年ものの定期預金の金利を年1%とする「節電プレミアム預金」などをスタートさせました。

――原発は段階的に撤退すべきですか。

吉原 いや、はっきり言って即座に止めるべきですね。なぜかと言うと、すでにわかったように、原発のコストは決して安くないからです。福島原発事故の補償は途方もない額にのぼる。そのうえ危険な使用済み核燃料を安全に処理する技術がいまだ確立されていないのです。この狭い国土に54基の原発があり、地震・火山・津波のリスクに怯え、ミサイルを撃ち込まれる国防上のリスクまで考慮したら、石原慎太郎都知事だって「とんでもない」とおっしゃるのではないか。

原子力は一歩間違えれば取り返しのつかない危険性を持っていることをネグレクトしてきた罪は重い。ただちに原発をゼロにすればさまざまな問題が起こるでしょうが、もはや議論する余地はなく、原発立地県の不安を考えたら、いったんすべてをストップするのが筋だと思います。

「原発」に姿を変えたお金の暴走

――なぜ、こんな事態が生じたのでしょう。

吉原 お金がバブルを生むように、原子力もバブルを生んだのです。もともと人々の幸せのためにお金があるはずですが、ともすると、人はお金に目を奪われて、それを忘れてしまう。お金というものは、人間の大脳が生み出した最大の妄想であり、魔物であり麻薬なのです。だから、何か具合の悪いことがあっても、ひとたび走り出すと止まらなくなる。間接金融のメーンバンク制の時代には、バブルが発生しないように銀行が一定の歯止めをかけていましたが、市場中心主義のもとで自由化が進んだため、お金が暴走するバブル現象を止める人がいなくなってしまいました。

原発が危険な技術だとしても、国益と安全性を徹底重視したなら、うまくいった可能性はあります。あるいは危険性が高まった段階で踏みとどまったかもしれない。ところが、原発はたった一基稼働させるだけで年1千億円を超える利益を生み出す麻薬です。いつの間にか、この巨大ビジネスに巣食う企業、政治家、官僚、学者らの利権複合体が生じ、そこへ莫大なお金が流れるようになりました。その結果、安全より金儲け第一に陥ってしまったのです。東日本が壊滅しそうなほどの大惨事、大悲劇が起きても、「原発反対」の大合唱が起こらないのは、お金が人の心を狂わせているからです。それこそお金の魔力、「原発」に姿を変えたお金の暴走だと思います。バブルの怖さを知る金融マンの立場からも見て見ぬふりはできません。

――今、求められているものは何ですか。

吉原 東京が直下型地震に襲われたら、城南も崩壊するかもしれません。「メメントモリ(自分もいつか必ず死ぬということを忘れるな)」という言葉があるじゃないですか。企業も今、この瞬間をどう生きるかを問われています。この国難には最大の善なることに取り組みたいと思います。

お客様サービスの充実も大事ですが、そういうことばかり言っている場合ではない。もっと大きく、世のため人のために何ができるかを考えたい。それが、お金儲けが目的ではない、相互扶助と非営利性を原点とする信用金庫の社会的な使命だと思います。

   

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