原発被害は政府の「人災」 福島県から子供が消える

佐藤 正久氏 氏
参議院議員

2011年7月号 DISASTER [インタビュー]
インタビュアー 本誌 和田

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佐藤 正久氏

佐藤 正久氏(さとう まさひさ)

参議院議員

1960年生まれ。防衛大学校卒、米陸軍指揮幕僚大学卒。92年外務省アジア局出向。96年国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、2004年イラク先遣隊長、「ヒゲの隊長」として有名に。07年7月参院選で比例代表全国区で初当選。自民党国防部会長。ツイッターでの熱心なつぶやきも話題に。

写真/小嶋三樹

――足繁く被災地を訪問していますね。

佐藤 私は防衛大学校、自衛隊の化学科で、核攻撃や生物・化学兵器からいかに防護するかを学んできました。おまけに福島県出身なので、故郷東北の窮状は他人事ではなく、宮城に6回、岩手に2回、福島に15回ほど足を運びました。この3カ月余の政府の対応はお粗末の極み。誰もが、準備した以上のことはできなかった。原発事故の処理が後手後手に回り、すべての初動が遅れたように言われますが、自衛隊に限って言えば、首相官邸の指示を受ける前に出動していました。3年前に行った「みちのくアラート2008」などで宮城県沖地震・津波の発生を想定した演習が功を奏したと思います。危機管理とは、平時には考えられない事態を想定して、万一に備えることです。つまり「想定内」をいかに広く考えるかが、危機管理の要諦。菅内閣が「想定外」という言葉を使うのは責任逃れです。

責任転嫁の菅さんには「心がない」

――参院予算委員会で「ヒゲの隊長」が声を荒らげて、菅さんを追及したと話題です。

佐藤 なぜ、初動で避難区域を狭く設定し、そこから徐々に広げていくようなバカなことをしたのか! 怒りがこみ上げてきました。本来地形や風向きを考慮して、住民を退避誘導すべきなのに、その知恵がなかった。単に同心円の外へ誘導したため、安全な地域に住んでいた人たちを放射性物質が向かう風下へ退避させ、知らず知らずに被曝させた。バーベキューをする時、煙が向かう風下に立つ人はいません。ところが、浪江町、川俣町、飯舘村の30キロ圏外の風下へ2万人もが避難し、政府が数値を公表するまで、汚染された水を飲み野菜を食べていた。後で計測したら、毛髪とか洋服に放射性物質が付着していた人がたくさん見つかった。危機が迫った時は、いったん広範囲で退避させ、安全が確認され次第、避難区域を狭めていくのが鉄則です。政府がやったことはあべこべでした。おまけに事故発生から65日も経ってから、住民を避難させる国がどこにあるでしょう。これは明らかな「人災」です。避難者への補償も「遅い、足らない、心がない」。東京電力の100万円の仮払いも半分ぐらいしか進んでいない。福島県では夜逃げ、倒産、自殺が急増するでしょう。

――菅総理には何かが欠けていますね。

佐藤 私はもはや「有事」だと思う。日本の根幹を揺るがす非常事態なのに、菅さんには一国のリーダーとして危機感がない。「想定内」が小さすぎ、連鎖する危機に全く対応できない。首相官邸は機能不全に陥っています。総理の周りに会議や組織が増えるばかりで、それをまとめる調整役がいないのです。本来、官房長官の役目ですが、枝野(幸男)さんは記者会見や国会対応に追われて寝る暇もないようだ。総合調整機能を放棄しています。官邸と経済産業省と東電本社と現場(福島原発)がてんでんばらばらだから「海水注入中断事件」なんて空騒ぎが起こるのです。

首相の資質を論ずるなら「心がない」の一言です。日本国の総理が避難所を訪れても、誰も有難いと思わない。私がその立場だったら、皆さんの目を見て「国がすべて責任を持ちますから安心してください。希望を持ってください」とだけ言います。「第一義的には東電の責任だ」なんて無責任なことは言わない。菅さんは野党時代、「自民党が自民党が」と怒っていた。今は「東電が東電が」と怒鳴っている。一に「責任転嫁」、二に「事態の矮小化」、三に「その場しのぎ」。菅さんの行動パターンは、この三つで説明できます。

菅さんはG8サミットで2020年代の早い段階に自然エネルギーを20%台に引き上げるとぶち上げた。政府内のコンセンサスを欠いたパフォーマンスだから、海江田(万里)経産相は「聞いていない」と横を向いた。さらに、1千万戸に太陽光パネルを敷設すると宣言した。現在、我が国の住宅は約2700万戸。その3分の1にソーラーパネルを載せるのに、どれほどの補助金が必要か。首相の現実感覚を疑わざるを得ない。

杜撰きわまる「校庭除染対策」

――福島市や郡山市から千人を超える小中学生が県外に脱出したそうです。

佐藤 菅政権だけでなく霞が関もどうかしています。校庭の放射能汚染対策ほど杜撰なものはない。計画的避難区域の被曝限度を年間20ミリシーベルトに定めた結果、そこから逆算して、文部科学省は1時間当たり3.8マイクロシーベルトという数字をはじき出した。全くナンセンスです。誰が考えても、子供には年間1シーベルト以下を適用すべきなのに、それ以下のことをやっています。20ミリシーベルトは危険で19ミリシーベルトなら安全だと、誰も証明できない。そんな「神学論争」の前に、いかに土壌汚染を除去するか、あらゆる手を打つべきです。結局、校庭の表土を50センチばかり掘って上下置換することになり、私も現場に立ち会いましたが、文科省から依頼された日本原子力研究開発機構の担当者は、校庭の真ん中と砂場の2カ所で作業をやっている。「砂場で上下置換したって、子供はすぐ掘り返す」と指摘すると、担当者は「私もそう思うが、上から指示されたからやっている」と答えました。校庭には樹木がたくさんある。木の下は根っこがあるので上下置換はできない。ジャングルジムの下もできません。文科省の役人は、たいてい校庭の真ん中で放射線量を計っているが、実はそこが一番低い数値が出るのです。逆に、葉っぱに付着した放射性物質が落ちる木の下や花壇の周辺、屋根に付着したものが雨に混じって流れ落ちる水たまりは高い数値が出ます。しかも、かなり精密な計測機を用いても0.5~0.6マイクロシーベルトの誤差が出る。つまり1マイクロシーベルトぐらいのサバを読まなければダメです。テレビで紹介される簡易線量計の誤差はさらに大きい。放射線量は距離の2乗に反比例して低くなりますから、計測数値はバラバラになりやすく、住民の不安心理を掻き立てるのです。

――夏場に向かって、被災地では破傷風などの感染爆発が懸念されています。

佐藤 被災地や避難所での防疫は緊急課題です。インドネシアの大津波も、最後は防疫と消毒が問題になりました。海水とヘドロは汚いもので、被災地の地盤沈下と相まってひどい汚水状態になっている。自衛隊はできる限り消毒してから撤収していますが、公共施設が中心で私有地の消毒はほとんど手つかずです。地方自治体も手が回りません。消石灰やアルカリ性の水を撒くなりして、何らかの手を打たなければなりません。子供が遊ぶ公園や通学路だけでも早く消毒できないものか。与野党の境を越えて真剣に向き合わなければならないテーマがたくさんあります。

   

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