2011年7月号 BUSINESS
民放の経営が厳しさを増している。若者とスポンサー企業のテレビ離れに大震災が拍車をかけ、広告市場は縮小必至だ。在京キー5局のうち4局が11年度も黒字の見通しだが、甘くないか。
「HUTが下がり続けているんです」
大手テレビ局の営業担当者は顔を曇らせる。HUTとはHouseholds Using Televisionの略。「総世帯視聴率」と訳され、日本の全世帯のうち、テレビ放送をリアルタイムで視聴している世帯の割合を示す。テレビ業界が「ゴールデンタイム」と称する最重要時間帯(午後7~10時)でみると、HUTは1998年度までは70%を超えていたが、インターネットの普及とともに低下の一途を辿り、2010年度は63・9%にまで落ち込んだ。テレビ離れが急速に進んでいるのだ。とりわけ若年層に著しい。NHKが今年2月発表した「国民生活時間調査2010」によれば、テレビを日曜日に15分以上見る人の割合は、20代男性で95年の85%から10年は69%と16ポイントも落ちた。20代女性も同88%→77%と11ポイント下がった。10代男性は同94%→80%と14ポイント下落、10代女性も91%→81%と10ポイントダウンした。
一方、スポンサー企業のインターネットへの広告シフトも進んでいる。電通が今年2月公表した「2010年日本の広告費」によると、10年の総広告費は5兆8427億円と前年比1.3%減少したが、この中でインターネット広告費は7747億円と同年比9.6%も増加した。インターネットは09年に初めて新聞を上回り、テレビに次ぐ我が国第2位の広告媒体に成長し、10年はさらに新聞広告費(6396億円=同5.1%減)との差を広げた。
片やテレビ広告費は1兆7321 億円で同1.1%増と伸び率は小さい。番組の合間に入れるスポット広告費は1兆189億円と同6.8%増を記録したものの、番組そのものを提供する番組(タイム)広告費が7132億円と同6.1%減になったのが響いた。スポンサー企業は、単価が高く、受け手が不特定多数で効果が見えにくいテレビ広告よりも、低単価でターゲットを絞りやすく、効果も計りやすいインターネット広告への評価を高めている。
そこへ3.11大震災だ。その影響は10年度こそ年度末だったため、自粛による広告減収はキー局で最大30億円程度にとどまったが、11年度は重くのしかかる。広告自粛だけでなく、景気後退やスポンサー企業の業績悪化に加え、原料・部品の不足、電力不足から工場の操業率が低下した自動車関連、飲料・嗜好品などの大手スポンサーが広告を抑制しているためだ。SMBC日興証券は11年度のテレビ広告市場の対前年度比成長率を従来の1. 8%増から2.5%減のマイナス成長へと大幅に下方修正した。名目GDP成長率見通しを従来の0.9%増から1.4%減に下方修正したのに伴う措置だ。
経営の柱である広告市場が縮小必至なのに、11年度のキー5局の業績見通しはテレビ東京ホールディングスを除いて強気だ。日本テレビ放送網は158億円、フジ・メディア・ホールディングスは56億円、TBSホールディングスは46億円、テレビ朝日は40億円の連結最終利益を見込む。テレ東は「サプライチェーンの回復が鈍く、見通しが立たない」(島田昌幸社長)ため、10億円の連結最終赤字に転落する見通しと発表した。
今年3月28日に亡くなった民放界のドン、氏家斉一郎日テレ会長は死の直前、広告収入について「長期的にみると楽観できない。テレビ業界はここ7~8年で5千億円近く売り上げを減らした」「(テレビ業界は)弱肉強食に尽きる。生き残りのためには弱者からパイを奪うしかない」と、経済誌のインタビューで指摘した。氏家氏の「遺言」どおり、日テレ、フジの2強はテレ朝、テレ東、TBSの下位3局のシェアを奪って黒字を確保する可能性大だが、テレ朝とTBSの見通しは甘すぎないか。