藤森 徹 氏
帝国データバンク東京支社 情報部長
2011年6月号
DEEP [インタビュー]
インタビュアー 本誌 和田
1963年生まれ。関西大学卒業。92年帝国データバンク入社。中小企業の経営問題に詳しく、与信管理セミナーなどの講演でも活躍。阪神大震災では自宅マンション半壊を経験した。
――大震災から2カ月が経ち、日本経済への影響をどう見ていますか。
藤森 震災被害が甚大な3県(岩手、宮城、福島)の名目県内総生産は日本全体の約4%。これは1995年に発生した阪神・淡路大震災で最も被害が大きかった兵庫県とほぼ同規模です。その影響は地震、津波の直接的被害から、原発の放射能漏れや電力不足問題にも波及し、政府発表の被害総額も16兆~25兆円と、いまだに推計の域を出ません。それでも4兆円規模の補正予算が成立し、道路・港湾などの復旧に1兆2千億円、ガレキなどの災害廃棄物処理に約3500億円、仮設住宅整備に約3600億円などの緊急対策が動き出しました。3月の鉱工業生産や消費支出は過去最大の下落率となり、足もとの景気の落ち込みは深刻ですが、年度後半から持ち直し、2011年度も何とかプラス成長になると見ています。とはいえ、消費自粛のあおりを受けた中小企業、とりわけサービス・小売業の信用状況は厳しくなっています。
――震災関連の倒産件数は?
藤森 今なお行方不明が1万人近い地域の被災企業の実態把握は困難です。本社が津波に呑まれ、社長とその家族が亡くなり、実質倒産状態に陥った企業が多数あります。
当社の集計では、震災関連の倒産は3月11日から4月30日までに66件にのぼり、これは阪神大震災当時の3倍の発生ペースです。岩手、宮城、福島の3県では計10件にとどまり、最も多いのは関東の20件ですが、北は北海道から南は九州まで全国各地で発生しています。
倒産パターン別に見ると、本社や工場設備などに甚大な直接的被害を受けたことによる倒産は6社で、残りの9割(51社)は「消費自粛のあおり」(30%)、「得意先被災等による売上減少」(24%)、「仕入先被災等による調達難」(17%)などを原因とする、「間接的被害」による倒産でした。
業種別には「旅館・ホテル」が8社と最も多く、「外食」4社、「広告・イベント」5社、「旅行」2社と併せて、消費自粛のあおりを受けやすい「不要不急」の業種が目立ちました。特に「旅館・ホテル」は、全国的な旅行手控えや放射能漏れの影響をもろに受け、予約キャンセルが相次ぎ、先行きの見通しが立たずに倒産に追い込まれたケースが大半でした。
――震災直後の3連休に、日光や箱根の旅館・ホテルの予約のほとんどが解除され、遠く離れた四国や九州でも7割近いキャンセルが出た。
藤森 湯西川温泉(日光市)の老舗旅館「伴久ホテル」は、震災による直接的被害はなかったが、予約キャンセルが殺到し、4月25日に破綻しました。翌26日には、和倉温泉(石川県)の老舗旅館「銀水閣」が予約解除のあおりで倒産。業績不振で債務超過状態に陥っていた老舗旅館がとどめを刺された格好です。
一方、最悪期を脱した箱根などはゴールデンウイークに平年の6~7割の行楽客を集めましたが、連休中にもかかわらず宿泊料金を据え置いた。気の毒なのは福島に近い北関東の観光地で、客足は戻っていません。
――アジアの賓客で賑わう高級ホテル「シャングリ・ラ東京」は震災直後、支配人やシェフが東京から離れたため臨時休業になりました。
藤森 首都圏でも原発放射能漏れの風評被害は甚だしい。米欧要人が泊まるホテルオークラも予約キャンセルが相次ぎ、4月半ばから全客室の半数を占める別館での宿泊を休止しました。日本政府観光局によれば、3月の訪日外客数(インバウンド)は50.3%減の35万3千人。最大の訪日国である韓国が47%減、続く中国が49%減、台湾が53%減、米国が45%減、香港が61%減になりました。夏場に向かってインバウンドがどれだけ戻ってくるか、国内の観光地は息を殺して見守っています。例えば、アジアからの誘客に成功した熱海では宿泊客の半数を中韓からの旅行客が占めている。インバウンドが一日も早く回復しないと、旅館・ホテルの倒産廃業が続出する可能性があります。