「四面楚歌」イスラエルが探る暫定和平

ネタニヤフの「有言不実行」にドイツのメルケルも激怒。友好国も批判的で、パレスチナが一方的独立宣言も。

2011年4月号 GLOBAL
by ベンジャミン・ポグランド(イスラエルのジャーナリスト)

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イスラエルを訪問したドイツのメルケル首相(左)とネタニヤフ首相(1月31日、会談後の記者会見)

dpa/PANA

チュニジアのジャスミン革命が中東に波及するなか、イスラエルとパレスチナの紛争は泥沼化し、イスラエルは和平努力を怠っているとの批判の矢面に立っている。

2月末、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の間で交わされた怒りに満ちた電話会談の内容が、イスラエルのハーレツ紙に漏れた。ネタニヤフ首相がメルケル首相に電話をかけ、ドイツが国連安全保障理事会の決議案に賛成の票を投じたことに遺憾の意を示したのだ。

アラブ諸国が提出したイスラエル入植非難の決議案をめぐり、安保理は2月18日に採択に踏み切った。決議案は1967年の第3次中東戦争以来、イスラエルが占領しているヨルダン川西岸と東エルサレムでのイスラエル入植を非難する内容で、投票結果は14対1と賛成票が圧倒的だった。しかし米国が拒否権を発動、決議案そのものが廃案となった。「安保理はこの問題を取り扱う場ではない」というのが米国の言い分だ。

ハーレツ紙によると、メルケル首相はネタニヤフ首相の“抗議”電話に「よくもそんなことが言えますね」と怒りをあらわにし「あなたこそ私たちを失望させている。和平へ一歩も前進していないではないですか」と反論したという。

米・EUも「裏切られた思い」

メルケル首相はこれまでイスラエルの信頼できる同盟者だったが、イスラエルに苛立ちを見せている。彼女だけではない。米国や欧州連合(EU)もイスラエルの友好国であり、和平を推進する先導者だが、パレスチナ独立国家を創設するという意味を持つ2国家解決案に向けて、ネタニヤフ首相が繰り返し「努力する」と約束しながら何もしないことに、裏切られた思いなのだ。

ネタニヤフ首相は2009年6月の重要な講演で、2国家解決案に向けて働きかけることを約束した。しかしその後、何も行われていない。ネタニヤフ首相の本心がどこにあるかは定かでないが、首相になるために寄せ集めた右派の連立政権のなかで身動きが取れなくなっている。

閣内ではアヴィグドール・リーベルマン外相をはじめとする何人かは、パレスチナ国家設立に全面的に反対している。そのほかは、慎重に認める姿勢を示してはいるが、非武装などの厳しい条件を付けている。

占領しているヨルダン川西岸や東エルサレムでの入植活動は重大な問題だ。ユダヤ人用に建てられるアパートの一軒一軒がパレスチナ国家の土地を減らしていることが根本にあるからだ。にもかかわらず、ネタニヤフ首相のパレスチナ国家設立への誓約をあざ笑うかのように、住宅建設は進む。それがパレスチナ暫定自治政府のマフムード・アッバス大統領に和平会談参加拒否の根拠を与えている。

パレスチナ側は、ヨルダン川西岸の67年以前の国境内と、ガザ地区に国家を設立することを目標としている。しかしすでに約50万人のユダヤ人がヨルダン川西岸と東エルサレムに居住しており、多くを強制移動させるのは非現実的となった。このため、土地の交換が協議されなければならない。

その一方で、ユダヤ人の家屋建設は止まらず、入植者が増えていく既成事実は日々、積みあげられていく。建設住宅の大部分はイスラエル政府の正式許可を得ているが、何軒かは許可なしに右派入植者が建てたものだ。彼らは「神がヨルダン川西岸をユダヤ人に授けた」と主張して、この地域を聖書と同じくユダヤとサマリア地区と呼んでいる。彼らは「ここに住む絶対的な権利がある」と言い張り、「違法」な入植を行っては時折、警察や軍隊にコンクリート製のビルやテントなどを壊され、立ち退かされている。

2月28日にも建造物破壊と強制立ち退きが行われ、いつもの光景が繰り返された。入植者が大声でわめき、警察は手荒く扱い、活動家が地元パレスチナ人の車を破壊するなど暴れまわるというパターンだ。

入植者はこうしたパレスチナ人への腹いせを「値札」と呼ぶ。政府に叩かれた分を、パレスチナ人への報復としてツケ回しにしているのだ。今回はエルサレムで道路を封鎖したり、タイヤを燃やしたりと、ふだんより幅広い破壊行動だった。

いつもなら政府は引き下がり、入植者の住居建設が続くことになる。

しかしネタニヤフ首相は、メルケル首相がみせた怒りや他国からの非難を懸念し始めた。イスラエルの孤立が深まっているからだ。イスラエルは自らの生き残りがかかっている友好国からどんどん離れている。

時を同じくしてアラブ世界がカオスに陥り、ジャスミン革命がどこまで進み、どこに落ち着くのか誰も見当がつかない。とりわけエジプトは、79年にイスラエルと和平条約を結んだ唯一のアラブ国家(ヨルダンを除く)であるため、行方は大いに気になるところだ。この2国間関係に温かみはほとんどないが、戦争に至ることはなかった。ホスニ・ムバラク前大統領が、しっかりした和平努力の仲介者だったからだ。

パレスチナ「半分国家」案

ムバラク失脚がどんな結果を生むか心配するあまり、イスラエルは米国や西側諸国にムバラク慰留の骨折りを頼んだ。それに失敗した今は、底知れぬ不安に駆られている。

ユダヤ国家を全面否認するエジプトのムスリム同胞団が今後、勢力を伸ばすのか。イスラム原理主義組織ハマスのガザ地区での活動を抑えることへの支持をエジプトは控えるのだろうか。また、同国はイスラエル向け天然ガス輸出を止めるだろうか。アラブの諸都市で沸騰している怒りが、ヨルダン川西岸のパレスチナ人を刺激し、イスラエル占領に対し新たな抗議が起きるのだろうか。イスラエルの抹消を呼びかけるイランが勢いを増すのだろうか――。

アラブ世界での先行き不安は、パレスチナ人との和平追求に反対するイスラエル政府の一角に利用されている。「ここは黙って様子を見るべきだ」と彼らは言うのだ。

一方で、ネタニヤフ首相は世界の批判に応えるため、新たな計画を練っているといわれる。この段階では全面的な合意は不可能なので、暫定的なパレスチナ国家をヨルダン川西岸の50%程度の土地で創設するというものだ。しかし、パレスチナ側は即座にそのアイデアに全面拒否の姿勢を示した。このため、ネタニヤフ首相は進展を拒んでいるのはパレスチナ側で、自分ではないと主張した。

現時点でありそうなシナリオは、パレスチナ側がイスラエルの立場を無視し、9月までに宣言したいとする国家樹立が国際的に認められるよう働きかけるというものである。地域的な大嵐がパレスチナを呑みこむ前に、問題を解決したいと世界が願うなかで、パレスチナが一方的に独立宣言すれば、イスラエルはますます世界との不調和を強めることになるだろう。

著者プロフィール

ベンジャミン・ポグランド

イスラエルのジャーナリスト

1933年、南アフリカ生まれのユダヤ人ジャーナリスト。アパルトヘイト時代に南ア紙に執筆。現在はイスラエル在住。主な著書に『War of Words』など。

   

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