「まめさ、まじめさ」が持ち味の松下政経塾1期生。仙谷が画策する「ポスト菅」の御輿に乗るか。
2011年4月号 POLITICS
仙谷氏は野田佳彦財務相(左)を担ぐか
Jiji Press
在日外国人からの違法献金が発覚した前原誠司外相が辞任に追い込まれ、「ポスト菅」のダークホースとして野田佳彦財務相が浮上してきた。
本来なら「本命」の岡田克也幹事長は小沢一郎元代表の処分がもたつき、党内の反感も買って求心力を喪失。小沢氏側の代表候補とされる海江田万里経済産業相、原口一博前総務相らは迫力不足だ。その点、野田氏は、党代表経験者の岡田、前原両氏ほど有名ではないが、民主党の内輪揉めに飽き飽きした有権者には「地味で手堅い印象が受けるかもしれない」(民主党中堅議員)。財政再建が最大の課題となる後継政権の舵を取るうえで、現職財務相の総理への横滑りはプラスに働くだろう。
前原氏と同じく、脱税事件で逮捕された人物が関係する企業2社から計80万円のパーティー券代金を受け取っていたことが発覚したが、前原氏が「自分がその男性を野田氏に紹介した」と明らかにしたこともあり、傷は浅いとみられる。
3月2日、東京・赤坂の中華料理店で野田氏が率いる「花斉会(かせいかい)」の宴に約40人が集まった。蓮舫行政刷新担当相や手塚仁雄衆院議員ら中核メンバーのほか、野田グループではない三宅雪子、松岡広隆両衆院議員ら小沢氏に近い1年生議員も顔を見せた。三宅氏は野田氏の近くに座り、楽しそうに話していたそうだ。挨拶に立った野田氏は「財務大臣なので予算が最優先。政局の話はしない」と強調したが、この時期に「拡大花斉会」を開いたことは、次期代表選に向けた動きと受け止められた。
野田氏は松下政経塾1期生。ちなみに、逢沢一郎自民党国対委員長とは同期の桜だ。千葉で自民党県議を2期務めた後、93年に日本新党から衆院初当選。一度落選しているため、同じ93年初当選の前原氏より当選回数は1回少ない5回だ。02年の民主党代表選(鳩山由紀夫氏が当選)の時、前原氏と野田氏が話し合い、野田擁立で一本化した経緯があり、以来、両氏の信頼関係は深い。
自民党県議からスタートしたことからもわかるように、民主党では保守系に属する。小泉純一郎首相の靖国神社参拝が焦点化した05年当時、「A級戦犯と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではないのであって、戦争犯罪人が合祀されていることを理由に内閣総理大臣の靖国神社参拝に反対する論理はすでに破綻している」と、民主党の見解と真逆の質問主意書を出して物議を醸したことがある。
人間関係がドライな民主党内で野田氏は親分肌で知られ、人望もある。演説が巧みで、毎朝、駅前で演説する「朝立ち」を20年以上続け、その後の松下政経塾出身者の選挙スタイルの開祖となった。なにげない挨拶も前の晩からオチを考えるまめさ、まじめさが持ち味。偽メール事件当時は国対委員長だったが、渦中の故・永田寿康衆院議員が野田グループだったため、永田氏を早期に切り捨てることができず、国対委員長辞任に追い込まれた。
野田氏は岡田(7回)、前原両氏より当選回数が少なく、党代表を経験していないハンデが大きい。しかも、野田グループは20人前後で、それほど大きな勢力ではない。かつては結束力と人材豊富を誇ったが、09年衆院選を目前にした同年5月の党代表選で出馬を見送ったあたりから、首相を目指すルートがかすみ、求心力が低下。馬淵澄夫前国交相と松本剛明副外相という中核メンバーが抜け、戦闘力が落ちた。現在、グループの中核メンバーは7、8人。100人を超える小沢グループや、40~50人を抱える鳩山、前原両グループとはかなり差がある。
ところが、ここにきて、その「立場の弱さ」が、むしろ強みになっている面もある。仮に菅首相が11年度予算案と関連法案で行き詰まり、退陣に追い込まれても、野党側は解散・総選挙を求めて民主党政権を攻めたてるだろう。誰が首相になっても参院で野党が過半数を占める「ねじれ国会」は変わらず、国会審議で苦しみ、早期解散に追い込まれる。「ポスト菅」は、短命の選挙管理内閣に終わる可能性が高い。岡田、前原両氏のような「本命候補」には火中のクリを拾うことにためらいがある。
一方、野田氏の場合、こんな難局でなければ、首相の座が転がり込むチャンスはない。身を捨ててこそ浮かぶ瀬だ。「ポスト菅」に野田氏を推す仙谷氏は「今、岡田を出すと民主党のカードがなくなる」と、周囲に漏らしたそうで、何をかいわんやだ。仙谷氏は、あまり親しくない野田氏をワンポイントで使う構想を抱いているようだ。野田氏なら、仙谷氏の腹の内を承知のうえで、御輿に乗るかもしれない。
もし、仙谷氏の構想どおりに事が進めば、献金問題で傷ついた前原氏は政経塾の大先輩である野田氏を快く推すだろう。前原グループの幹部も「こうなったら野田さんを担ぐしかない」と語る。岡田氏も出馬を試みるだろうが、前原、野田両氏が一本化で動いた場合、自らのグループを持たない岡田氏は仙谷氏に押さえ込まれるだろう。一方、元野田グループの馬淵氏は野田氏が出馬しても構わず参戦する。さらに、テレビ出演で「菅首相が退陣した場合、党代表選には出馬する」と明言した樽床伸二元国対委員長も立つだろう。
代表選は野田、馬淵、樽床の3氏に加え、小沢氏側が原口氏か海江田氏を立て乱戦になる可能性が高い。野田氏の苦戦が予想されるが、野田、前原、菅の3グループが推せば勝ちが見えてくる。党代表選で注目を集め、挙党一致の新政権のもとで解散に踏み切り、負けを最小限に抑える。それが仙谷氏の構想だろう。
野田氏は3月4日の記者会見で「まずは3月末までに予算と関連法案を成立させるために政府・与党一丸となって取り組まなければいけない」と述べ、「ポスト菅」に慎重な姿勢を示した。しかし、同日夜のテレビ出演では「借金の山を残して、持続不能な日本を残すようなことは政治家としてやりたくない。覚悟を決めてやりたい」と力強く語った。
首相を目指す野田氏にはハードルがある。まず11年度予算関連法案の国会審議が行き詰まって菅首相が退陣した場合、財務相の野田氏に後を襲う資格があるのかという疑問がわく。党内に居座って政権を揺さぶり続ける小沢氏との関係も微妙だ。これまであまり目立たなかったが、野田氏は岡田氏や枝野幸男官房長官と並ぶ「アンチ小沢」の急先鋒だ。昨年9月の党代表選で「脱小沢」路線の修正に傾く菅首相に「そんなことをしたら支援できない」と、しきりに背後から気合いを入れたのは野田氏だった。財務相として財政再建路線を主導している点も、小沢氏側から「増税路線」と拒絶されそうだ。
野田氏は53歳。40代の台頭が著しい民主党では若手とはいえず、自ら手を挙げて挑戦する立場にはない。党内の期待と思惑が渦巻く御輿に乗るしか、首相への道は開けない。