M7.8大地震「人間ドラマ」の迫力

映画『唐山大地震』

2011年3月号 連載 [IMAGE Review]
by K

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映画『唐山大地震』

映画『唐山大地震』

監督:フォン・シャオガン/出演:シュイ・ファン、チャン・チン、チュー、リー・チェンほか

3月26日(土)より丸の内ピカデリーほか全国でロードショー(配給/松竹)

中国映画史上最大の総動員数を記録した『唐山(とうざん)大地震』が公開される。阪神・淡路大震災など地震の悲惨な記憶が癒えない日本でも、話題作となるのは間違いない。

1976年7月28日、北京から東へ約140キロにある中国河北省の工業都市、唐山市でマグニチュード7.8の直下型地震が発生した。都市機能は完全に麻痺、民家の93%、工業施設の78%が倒壊し、公式発表で死者24万人、重傷者16万人の大きな被害を出した。物語は、地震で悲劇的な別れを余儀なくされた或る家族の32年を見つめる。

夫を失ったばかりのリー・ユェンニー(シュイ・ファン)は、双子の娘と息子が瓦礫の下に埋もれていると知らされる。しかし、救助に当たる人々から「一人しか救えない。息子か娘か選んでくれ、このままでは両方死んでしまう」と言われ、苦悶の末、息子を救ってくれと泣き崩れる。息子は片腕を切り落とされながら救出された。遺体とみなされて残された娘はその後、奇跡的に息を吹き返し、人民解放軍の救助隊に救われた。

成長した息子のダー(リー・チェン)は大学進学を望む母を楽にしてやりたいと、家を出て働く選択をする。軍人夫婦の養女となった娘のドン(チャン・チンチュー)は、実母に見捨てられたという心の傷がトラウマとして残っている。医科大に進むが、妊娠し、行方をくらましてしまう。そして08年5月12日、四川大地震が起きた。カナダ人と結婚し海外で生活していたドンと、ビジネスに成功したダーは、せきたてられるようにボランティアとして四川へ向かう。

監督は『戦場のレクイエム』などを手がけたフォン・シャオガン。四川大地震が起きた年に、唐山市から、自分たちの街を破壊した地震についての映画を作ってくれないかと依嘱された。監督は以前にチャン・リンの小説『余震』を読んで強い感銘を受けており、チャンの小説を原作とする構想を即座に描いた。

地震シーンは迫力がある。CGは使用せず油圧システムを導入、その土台の上に軽量の素材を使って家々のセットを作った。家財道具などを昔どおりに再現するため市民に提供を呼びかけた。それだけリアル感が鮮明になったが、そのままでは特殊撮影で終わってしまう。人間ドラマとして骨格がしっかりしていなければならない。が、それも杞憂に終わった。

祖母に連れていかれるダーが母親の元に駆け寄る場面、我慢ばかり強いた娘に再会後、母が昔の願いをかなえようとする場面など、涙なくしては見られない箇所がたっぷりで、心の奥底に深い傷を負いながら家族の愛の絆を求めてやまない登場人物の切ない思いが、熱い感動を伴って伝わってくる。地震で家族を亡くした人々の心情を代弁しているのだ。

唐山大地震が起きた当時、中国は文化大革命の余波が色濃く残っており、政府は「自力で立ち直る」と外国からの援助を拒んだ。このことが犠牲者の数を増やした一因ともいわれている。今回の映画では、中国政府の対応の是非については特に踏み込んでいない。その辺が、政治的制約から全く自由ではない中国映画の限界を示しているといえよう。

   

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