日本と北欧結ぶ室内楽の「太陽」

トリオ・ネーベンゾンネン

2010年12月号 連載 [MUSIC Review]
by 堅

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トリオ・ネーベンゾンネン

トリオ・ネーベンゾンネン

コンサート
12月11日(河口湖円形ホール)、26日(秩父市歴史文化伝承館ホール)ほか
CD問い合わせ先:PAU(045-895-6295)

チェロ奏者のセッポ・キマネンは1970年、妻でヴァイオリン奏者の新井淑子とともに旧ソ連国境に近い小さな町で「クフモ国際室内楽音楽祭」を立ち上げた。以来、フィンランドで最もアクティブな音楽家・文化人と目されてきた。日本でも新井の故郷、北九州市でクフモの姉妹音楽祭を企画したほか、2007年から3年間は東京のフィンランド大使館に報道・文化担当参事官として駐在勤務するなど、日本でもかなり幅広い人脈を蓄えている。

新井&キマネンは大使館での仕事と並行し、日本でも演奏活動を続けた。ここ1年半ほどはシューベルトの「ピアノ三重奏曲」を軸に埼玉県秩父市出身、独ドレスデン音楽大学で名手ペーター・レーゼルに師事したピアニストの髙橋望とのトリオ演奏に力を入れてきた。

40年以上の歳月を室内楽の分野に捧げ、世界の演奏家と共演してきた新井&キマネンの目には指だけ達者で「何を言いたいのかわからない」タイプのピアニスト、スターとしてもてはやされながら室内楽で「コミュニケーション不能」に陥る独奏者など、一部の日本人演奏家の姿は奇異に映る。髙橋は早期英才教育を受けたエリート奏者ではない。秩父の自転車店に生まれ、心から音楽が好きでピアニストを目指し、ドレスデンから02年に帰国後も中学・高校の友人の輪で実行委員会をつくり、こつこつ20回以上のリサイタルを開いてきた。その実直さは音楽にも表れ、新井&キマネンの厳しい「おめがね」に適った。

髙橋は留学前に大分市で往年の大ピアニスト、園田高弘が主宰していた国際ピアノコンクールで第3位をとったことがある。夫の死後もプロデューサーとして若い世代のピアニストを励まし、演奏会やCDを制作してきた園田春子も、帰国後の髙橋の精進に注目してきた。09年はフィンランドと日本の修好90年に当たり、新井&キマネン夫妻は還暦を祝った。今年は髙橋のリサイタルが20回を数え、夫妻の東京の任期が明けた。これまでの共演成果を記し、今後の日本、フィンランドでの活動の弾みにもしようと、トリオの演奏を収めたCDの企画が持ち上がった時、園田春子は快くプロデューサー役を引き受けた。

シューベルトの「ピアノ三重奏曲第2番」に夫妻ゆかりのフィンランドの作曲家、シベリウスの小品を組み合わせた録音が美しく仕上がった時、全員が「チームの名前がない」ことに気づいた。無数の名前が浮かんでは消え、「トリオ・ネーベンゾンネン」に落ち着いた。

「ネーベンゾンネン」とは、日本語で「幻の太陽」の定訳があるシューベルトの連作歌曲集「冬の旅」第23曲の原題。人生に絶望した若者が空を見上げたとき「太陽が三つに見えた」との内容だが、新井&キマネンと髙橋の場合は間違いなく、日本とフィンランドの間に橋をかける「三つの太陽」を意味する。

国境や世代を超え、美しい音楽の虹を奏でるトリオ・ネーベンゾンネンは10月のフィンランド・デビュー、12月前半のCD発売に続き、歳末から11年初めにかけては北九州、秩父の両市はじめ、日本各地を演奏して回る。

   

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